第593話 周期
新一年生達が去った後、僕は緊張がほどけ、くぅと伸びをしてから項垂れる。
「リン様は、入ってくださるでしょうか?」
「望み薄……かもしれないね」
僕もソフィア元会長みたく権限で副会長にすればよかったのかな?
でも嫌がる人を無理矢理なんて、僕にはできないよ……。
「駄目で元々だし、引っ掛かったら運がいいくらいのものかな」
「そんな、釣りじゃないんですから……」
しばらくはきっと、勉学に集中したいことだろう。
それに後で会長になりたいと言われたとしても彼女は聖女。
この世界の最高権威なんだし、ごり押しで認可されるのだろう。
もっとも本人が、途中で言いたいことをガラリと変えられるような、そんな強気な人ではなかった筈だけどね。
「お茶のおかわりです」
「ありがとう。エルーちゃんも、こっちに腰かけて」
「いえ、私は……」
「いいから、座りなさい。今日、辛いんでしょう?」
「っ!」
忍ちゃんに聞こえないようにぼそりとそう言うと、エルーちゃんは少ししんどそうな笑みを浮かべてこくりと頷いた。
エルーちゃんと涼花さんからそれぞれ三等分された知識の中には、僕にとって必要のなさそうな知識が意図せずして入ってきていた。
そう、それはとある周期とか……。
特にエルーちゃんは周期がきっちりしている方で、その上彼女は次の周期を算出し、事前に用品や魔道具の準備をきちんとするタイプのようだった。
そして僕の脳内には奇しくも直近の日にちと謎の方程式が僕の脳内にはある。
14の倍数だと二週間単位で数えられるから、計算が楽だよね。
僕は何を言ってるんだろうなぁ……。
それに僕が考えようとしなくても、三分の一のエルーちゃんの記憶が「今日だ」と告げてしまっていた。
でも聞かなくても辛い日が分かるというのは僕にとっては大変ありがたい話で、いつも僕のことをお世話してくれているエルーちゃんに無理をさせないように僕の方から歩み寄れる。
「ハイヒール」
「そ、そんな!こういうのはしばらく待っていれば、収まりますから……」
「でも辛い時間なんて長くないに越したことはないよ。ジンジンしたらイライラしちゃうでしょ?」
お腹の下辺りを重点的にヒールをかけ、強化魔法をかけつつ清浄で余計なものを剥がしていく。
「痛みは私には分からないけど、これでも学園の子にたまに頼まれたりするから、痛みの和らげ方くらいは分かるよ」
「あっ、気持ちいい……です……」
「…………」
いや……痛みを感じていないのは、良いことなんだけど。
タイミングというものがありましてですね……。
「(……その後、この光景を目に焼き付けた僕は、独り夜な夜な思い出しその分身を慰めるのだった……)」
「変な脳内テロップ付けないのっ!」
清浄をしている間、暇そうにしていた忍ちゃんに話しかけることにした。
「忍ちゃん、さっきの話だけど」
「リッチの件でございますね」
真面目な仕事の話の時は変なことを言わないのと、頭の回転が早いことだけは評価している。
だからこそ、少し憎めないところはある。
「うん。どこまで分かってる?」
「ソラ様の懸念の件ですが、今お父様とお母様が調べに向かってます」
「杏さんとヴァンさんが?」
「はい!ですので今こそ、『両親は今日帰って来ないから……』ができますね」
……前言撤回。
仕事の話しなさいよ。
どんな教育させたらこうなるのか、一度杏さんは問いただした方がいいのかもしれない。




