閑話157 強突張
【橘涼花視点】
<聖女様とエリス様が見守ってくださる中、私達は無事卒業の日を迎えました。二年前、ソラ様が仰った『誰一人欠けることなく』卒業できたことを、とても誇りに思っています>
だがそれは、私が、いや私達が成し遂げたものではなかった。
<ですが親衛隊として聖女様の身近に身をおいて痛感いたしますが、私達がこうして無事に卒業できたのも、全て聖女様が安寧を守ってくださったからに他なりません。ソラ様が魔王を倒してくださらなければ私達は誰も勝てず、きっと大勢の人が亡くなったことでしょう。今でさえ私達が平穏に暮らしている影で、ソラ様は自ら身を削られ、四天王や魔物と戦っておられました>
結局、一人ではどうしようもなかった。
<私達が聖女様に返して差しあげられることはほとんどありません。ですが幸い、私達は一人ではありません。我々一人では世界を救えなくとも、200人ならば人を変え、民を導き、国に貢献し、衣食住や研究によって人々の生活を豊かにし、強い魔物に負けない組織を作ることもできます。一人一人が今できることを見つけ、歩みを進める。これが生かされた私達が聖女様に出来る唯一の恩返しだと思っています>
私達はもう、一人ではない。
だが私が属するは最高権威の聖女様をお守りする親衛隊。
ただ集団で強いだけでは駄目だ。
「一週間、お休みをいただきたく」
「行くのだな、涼花殿」
「すまない、師匠……」
「皆まで言うな。練習メニューは変えないでいいか?」
「ああ。だがソラ様のご意見は聞くように」
「心得た」
一度の挫折は、母上の死だった。
その時から自分を磨いてきたつもりだったが、シエラ君に二度目の挫折を受けた。
そして最強の座を冠するお方に教えを乞い、私は強くなった。
……つもりでいた。
結局ソラ様はエルーシア君だけを連れ、リッチの討伐に向かった。
帰ってきたソラ様は、廃人になりかけていた。
……あの人の記憶の三分の一を譲り受けた今なら分かる。
あのお力を手にするまでに三年間かかったものを、わずか数ヵ月の付け焼き刃で全て会得することなど出来やしない。
ソラ様は決して知識だけのお方ではない。
自然に動きを再現できるほどにまで洗練された技の一つ一つを、頭の中の自分の動きを完全再現できるまでに繰り返し、繰り返し打ち続けた。
歴代のどの聖女様よりも努力して得たものだったのだ。
個人でただ強くとも、集団でただ強くとも、それだけではあのお方を守れない。
私は、もっと知識にも技術にも貪欲でいなければならない。
そのためには、一人の師匠にだけ師事するのは愚策。
「来ましたね、涼花」
「白虎様、青龍様、私を強くしてください」




