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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第591話 誘致

 卒業式の翌日。

 この春休みの日に、僕は学園に来ていた。


「はぁ。どうしよ……」


 一応来年も臨時講師は継続らしいけど、今日は決して先生業ではない。

 ここ聖徒会室で溜め息をついていた。


「シエラ会長、病み上がりなのですからあまり無理をされては……」


 そう言いながらシュライヒ領産の『聖茶』を出してくれるエルーちゃん。

 学園に行くと言ったら、エルーちゃんも制服姿でついてきてくれた。


 口に含むと、砂糖のいらない自然な甘みが口のなかに浸透してくる。

 ここでシュライヒ領(うち)の茶葉なんて使ってもいいのかと思われるが、持参して淹れる分には自由らしい。


「いや、そんな大したことじゃないんだけど……。慣例ってものがあるじゃない?」

「次々期会長候補として一位を勧誘するというのが習わしみたいですからね」


 学生としてはその伝統があるし、皆も、そして当の首席も期待していることだろう。

 断れども入るにしろ、聖徒会は『一度勧誘を受けた』ということに大きなステータスがあるらしい。

 もし平民でも就職に直結するほどらしいし、貴族令嬢としても過去の偉業みたいに語られるそうだ。


「でも、そうも言ってられないんだよね……」


 なんといっても今年の一年生には、()()がいるからなぁ……。


「そんなに気になるのでしたら、両方お招きになられては?」

「う、うーん……それしかないのかな……」


 こんな時、頼れる先輩も、もういないのだ。

 あとは任せて安心して卒業してくださいと言ったのに、これでは示しがつかない。


「出だしからこんなに悩むことになるなんて……。きっとソフィア女王や涼花さんなら、即決なんだろうな……」

「会長が全能である必要はないと思いますよ。シエラ会長みたく悩まれる姿を見ていると、親近感が沸いてきますから!悪いことばかりではないかと」


 そういうものかな……?


 その時、ドアがノックされた。


「どうぞ」

「失礼いたしますわっ!」

「ル、ルージュちゃん!?」

「シエラお義姉様、()()()()ましたわ!」

「ひ、リン……様に、東子ちゃんまで……」


 ルージュちゃんには僕が何で悩んでいるか、見越されていたらしい。


「さすがは首席、先の先まで読んでますね」

「お褒めに預かり光栄ですわ」

「ほ、本当に()……シエラ様が会長なのですね……!」


 察したエルーちゃんが、普段は閉めない聖徒会室の鍵をかけてくれた。


「あの、お給仕なら私めも……」

「東子ちゃん、今はあなたもお客様なのですから、おとなしくお世話されてください」

「て、天使のご奉仕……!勉強させていただきます……!」

「もう、普通にお世話されてください!」


 東子ちゃんはエルーちゃんのこと、憧れてるのかな?


「一応聖女結界張っておこう……」

「?」

「あ……エルーちゃん、()()()には、お茶出さなくていいからね、もう……」


 すっと出てきたのは、いつもの変態。


「お初にお目にかかります」

「「きゃあっ!?」」


 ルージュちゃんと柊さんから甲高い声が聞こえると、二年生の騎士科の制服を着たミディアムヘアの女の子がいた。


「シエラ様の追っかけをやってます、忍と申します」

「追っかけ……」


 自己紹介、本当にそれでいいの……?


「暇してるなら後で調べ事して欲しいんだけど……」

「仰せのままに」


 僕より賢いから頼りにはなるんだけど、道徳面が終わってるからなぁ……。

 男の僕が言えた立場じゃないけど、この子が会長なんてやったら学園が終わると思う。


「忍様は、影のお方でしたのね」

「ご内密に」

「影って……ああ、サクラさんが頭を抱えながら話してたあの……」


 普段は少しおちゃらけたサクラさんですら頭を抱えてるんだから、その印象がいかに悪いことか……。

 民の皆さんも『聖影』の存在事態は知ってるんだけど、実態は知らないから、「聖女の代わりに汚れ仕事もこなす凄い人達」くらいの認識らしい。

 僕の悪態は気にせず、エルーちゃんは忍ちゃんにもお茶を出していた。


「改めて皆様、合格おめでとうございます。ここ聖女学園で聖徒会長をしています、3年のシエラ・シュライヒと申します。ここにいらっしゃる皆様は()()をご存知かと思いますが、()()()()シエラとお呼びください」


 そう、今だけは……ね。


「3年書記のエルーシアです」

「2年広報委員長、()です」

「え、えと……柊、凛です」

「東子と申します」

()()()()と申しますわ」


 あ、そっか。

 聖女相手に名字名乗っちゃ駄目なんだっけ……。

 エルーちゃんに鍵閉めてもらっていて助かった……。


 挨拶を終えたところで、本題に入る。


「例年入試で一番良い成績を収めた方には、聖徒会でその実力を大いに振るっていただきたいのでこうして勧誘しているのです」

「今年の首席は、ルージュ様ですね」

「ええ。もちろんご自身のやりたいことが優先ですから、断っていただいても大丈夫です」

「お断りすると、どうなるのでしょう?」

「例年ですと断られたら今度は次席の東子ちゃんにお伺いする感じですね。2つ上の代のエレノア王女は首席でしたが、クラフト研究部に入りたいからと断っていたそうです。次席のソフィア女王が聖徒会に入っていましたし、断ったからといって何かあるわけではありません。まずは聖徒会に入るかどうかの意思確認をさせてください」

「私は入るつもり()()()わ。生徒を纏めることは、将来民を纏めることにも繋がりますもの。でも、それでは()()()()()()()()でしょう?」


 う、断る気満々じゃないか……。

 でも()()()()()()ら、断る一択だよね……。


「察しがいいのは助かるけど……まだ断らないでね、ルージュちゃん」

「それは……」

「あ・く・ま・で、お・ね・が・い・で・す!今の私は、()()()ですってば……」

「……わかりましたわ」


 こんなことで一々聖女として命令なんてしないから……。


「あの、角が立つとは?」

「実は先生方からは……リン様にもお伺いを立てて欲しいと散々言われておりまして……」

「わ、私ですか!?」


 ここは聖女信仰の中心といっても過言ではない聖女学園。


「聖女様はこの世界で最高権威。もしリン様の意見を無視して私を招き入れなどしてしまえば、たとえ聖女様が許してくだされども、生徒や先生方からは決して赦されないのですわ」

「つまり先生方としては、あなたに一度お伺いを立てたという体裁が欲しいということです」


 情けないことに搦め手が浮かばなかった僕は、正直に事情を全て話すことにした。

 『聖茶』で一息いれた僕は、立ち上がって柊さんに手を差しのべる。


「第102代聖女、柊凛様。聖女学園の聖徒会に入ってみませんか?そして聖徒会長になって、この学園をあなたの好きなように変えてみる気はありませんか?」

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