第587話 寝室
心もテントも、色々と落ち着けた僕は、熱などは特にないということでパティ医務室長からお墨付きをいただき、自室に戻ることに。
「そもそも、私なんかに止める権利なんてありませんよ」
「……?」
意味不明なことを言っていたパティさんだったけど、その意味を知ることぬったのは、すぐだった。
とはいえまたしばらく栄養もろくに取っておらず身体が動かなかったので、二人に車椅子に乗せてもらい、押してもらう。
僕、いつもこんなだな……。
自室の扉を開けると、パンパカと音が聞こえてきた。
「ひゃあっ!?」
思いがけない音に、耳の弱い僕はびっくりしてしまう。
「「「ソラ様!お誕生日、おめでとうございます!」」」
ああそっか。
僕がぶっ倒れていた間に、いつの間にか僕の誕生日を過ぎていたらしい。
昨年も同じようなことしてサンドラ女王に怒られたな……。
「ソラちゃん、誕生日おめでとう!」
「天先輩、おめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます。って、この部屋……!」
あのピンクピンクしていた部屋が全て消えており、薄い水色をしていた。
僕の眼前に広がっていたのは、部屋に埋め尽くされるかと思うほどの動物のぬいぐるみさん達だった。
「エリス様の命でソラ様はこういった部屋に憧れていると仰っていたのでこの部屋にしたのですが、まさかソラ様が苦手でしたとは……」
ああ、エリス様が決めたことだから、同列の序列を持つ僕が言い出さない限り、この部屋は変わらなかったのか……。
そんなのずるいよ、エリス様……。
「ルークさんに相談して、本当によかったです……」
「そ、そこまでお嫌だったのですね……」
可愛いのは好きだけど、少女趣味になったわけじゃない。
でも今はそんなことより、新しくなった僕の部屋だ。
「わぁ……もこもこだぁ……!」
天蓋付きのお姫様のようなベッドは消え去り、カーペットやソファは雲のように白くもこもこしている。
「洒落では御座いませんが、『ピンク以外なら任せる』とのお話でしたので、デザイナーをお呼びし、『空』をモチーフにしていただきました」
まるで雲の上で暮らす動物達というテーマのようだ。
「小物まで、全部一新されてる……。これ、結構したんじゃないですか?」
「勿論、全て最高品質のものを使わせていただいております」
「いや、そんなにお金かけなくて良かったのに……」
「何を仰います!ソラ様が全くお金に手をつけてくださらないので、ここで使うしかなかったのですよ!ソラ様は、もっと浪費なさってください」
「え、えぇ……?」
確かに学費はSクラスで免除だし、少しの美容品と服、食事くらいしか使ってないけど、これでも僕にとっては随分と贅沢なんだけどな……。
市場が止まるというのは分かっているけど、浪費をお願いされる程だとは、少し認識がかったのかもしれない。
でも急にお金もらっても、使う先がないって……。
「でも、ありがとうございます。こんな素敵な部屋なら気持ち良く暮らせると思います」
「皆で準備した甲斐がありました」
「このぬいぐるみさん達もプレゼントなんですか?」
「ええ。それと、はい、これ!」
「そ、それはっ……!?」
サクラさんがアイテムボックスから何気なさそうに取り出したそれはみるみるとこの部屋一体を覆い尽くそうとするほどまでになった。
それは、ジャイアントくま九郎……とでも言うべきだろうか?
くまさんの大きいぬいぐるみ?が、消えた天蓋付きのフリフリのベッドの代わりにそこに埋められた。
良く見るとくまさんのぬいぐるみは少しだけ平べったくなっており、触るとふわふわしていた。
「こ、これって!もしかして……」
「そうです。くまのぬいぐるみ風ベッドです」
「わあっ!すごい……!」
「院の皆さんで一緒に作ったんですよ」
「カーラには負けるけれど、私も編み物はある程度できるのよ」
「ありがとうございますっ!大切に使いますねっ!」
今年も僕のせいで誕生日は過ぎてから祝われることになってしまったけれど、昨年に増して嬉しいプレゼントに、僕は胸が一杯になった。




