第586話 肥大
「話を戻すが、ソラ様は殿方である前に聖女だろう?」
「まあ、一応……そういうことにはなっていますが……」
「聖女様は法そのものだ。私の母上も若い頃は結構やんちゃしたそうだしな……」
「いや、でも流石に女学園に男が混じって良いなんて法を作るのはおかしいですって……」
それじゃあただの法をねじ曲げようとする独裁者だよ……。
「しかしソラ様がそんな心配をするなんて、おかしいこともあることだな」
「へ……?」
「くぅ……呆けた顔……かわ……!これで、男の子なのか……」
心の声が漏れてるよ、涼花さん……。
「ってそ、そうではなく!」
「……?」
「可愛いものに、性別は関係ないだろう?」
「涼花さん……!!」
同志よ!と思いながら、その僕よりしっかりした手をそっと持ち上げる。
そうだ。
シル君も、東の国の静馬王子も、男の子だって可愛いものに優劣や貴賤などない。
そんなこと、分かりきっていたはずなのに……。
いや、だからといって女装した自分が可愛いなどとは思わないけど……。
でも、その気持ちには共感できる。
「や、やめてくれっ!」
「……?」
「今触れられると、その……色々と思い出してしまう……!」
「色々って……ぇっ!!?」
僕もなるべく思い出さないようにはしていたけれど、今の僕の頭の中には、エルーちゃんと涼花さんの思い出がある。
それは下手をすれば家族や本人しか知らない、いわゆるお風呂での記憶や、トイレでの記憶もあるわけで……。
しかも、厄介なことに幼い頃からの体つきの変遷が分かるかのように、僕の記憶に混じり混んでいた。
エリス様、まさか故意じゃないよね……?
「『ああ、これを機にソラ君は少し肉食になった方が良いと思って……!』」
「ちょっ、何言ってるんですかっ!」
紛うごとなき故意だった。
「『あら、元気❤️』」
「ちょおおおおっっ!?」
サンニントモ、ドコミテイッテルンデスカ……?
エルーちゃんは徐々に顔を赤くしていき、涼花さんは耳だけ赤くし、シルヴィアさんは最初から顔を真っ赤にしていた。
僕は恐ろしくもカタカタカタと、まるで怪談を聞いた後に怖くなったかのように視線の集中する方へ目を傾けていくと、どうもそれは僕の下半身に集中しているようで……。
先ほど、僕はエルーちゃんの記憶を、知ってしまった。
つまり奇しくもここにいる三人は、皆僕のことを……!
「さ、更に大きく……!?」
やば、想像しちゃ、ダメぇっ!?
「!?!?!?『あっ、ちょっ、ダメ、シルヴィ!』っ……」
「シルヴィアさんっ!?」
シルヴィアさんが倒れたっ!
ああそっか、エリス様の分の感情とシルヴィアさんの分の感情で、感度が二倍なんだっけ……。
<私達に頼れば良いのに……。ヘタレ……>
できるわけないでしょっ!!
「もう、なんとでも言ってくださいっ!!」
張ったテントを片付けるために、魔法に頼る僕に、憑依を解除したエリス様は僕にだけ聞こえるように、ぼそっと念話するのだった。




