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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第582話 感情

「『ソラ君、以前から感情の起伏で魔力が溢れ出ることはなかったかしら?』」

「そ、そういえば……」


 エルーちゃんを初めて助けたとき。


 同じ境遇だったシェリーとセフィーに自分を重ね、シルヴィアさんから助けたとき。


 アール王子の境遇に自分を重ねたとき。


 感情に呼応して魔力が溢れることが度々あった。


 そして同じことを繰り返すオルドリッジ元夫人からシル君を助けたとき、それは暴走した。


「『聖女や神獣などの私達神族は、他と比べて魔力が身体に浸透しやすくなっているの。それは何故か分かる?』」

「……それが、最上級魔法を打つための条件ということですか?」


 僕たち聖女と神獣の共通点といえば、それしかない。


「『そうよ。民が最上級魔法を使えないのは、生まれつきその身に安全装置が付いているようなものだから。でも聖女にはそれを付けていないの』」

「安全装置……つまりこの聖女の身体には、デメリットがあるってことですよね?」

「ッ!奥方様、それは違いますッ!『いいえ違わないわ。これを機に従者には覚えておいてもらわないと。これ以上ソラ君が無理をすることがあってはならないわ』」


 エリス様を纏って光輝くシルヴィアさんは、外で降り続く雨を眺めていたが、やがてエルーちゃん達の方を見つめた。


「『とはいえこれは他言無用よ。聖女の弱点にもなり得るんだから』」

「も、勿論でございます……!」

「あまり脅さないでください。三人はそんなことするような人ではありませんから……」

「『いいえ、きっちり脅すわ。かつて従者を魔王に殺された聖女は、その怒りに身を任せたの。ウララって言うんだけどね』」


 歴代聖女の中でも最強と謳われた一ノ瀬(いちのせ)(うらら)さんは聖女史を見る限り、魔力方面にカンストしていたと伺える。

 そんな一ノ瀬さんが病死ではなく魔王に負けたなど、到底考えられなかった。

 

「まさか、ウララ様は……」

「『そうよ。感情が高ぶり過ぎたウララは魔力が迸り普段よりもずっと強い力を発揮した。でも過ぎた力は神獣やシルヴィみたいな「神の器」ならまだしも、人種族である聖女の身体では到底耐えられなかったのよ』」

「そ、そんな……!?」


 約20代も前の事なのに、彼女はまるで少し前を思い出すかのように悲しそうな顔をしていた。

 聖女を看取った数だけでいえば、エリス様に敵う者などいない。


「『ウララは熱が押さえられず、そのまま命を引き取ったわ。聖女(友人)の感情を揺らすのは、本人だけとは限らない。それを胸に刻んでおきなさい』」


 その彼女の忠告ほど聞くべきものは、この世にはないだろう。

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