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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第577話 無様

「師匠っ!もう持ちませんっ!!」

「えるーちゃん、すてらちゃん、ぼ、ぼくは……」


 お姉ちゃんだったそれは、やがてパクパクしていた口がカカカカカという骨の上顎と下顎が、不気味にも噛み合わさる音へと変わっていった。

 僕がゲームで見ていた時のリッチとは姿が少し異なり、黒いマントではなく赤みがかった紫のマントに赤い宝石の散りばめられた、高級そうなリッチがそこにいた。


 僕が見ていた幻影は、先程までリッチが僕に見せていたものだったらしい。

 そして同じようなリッチがまた地面を突き抜け、次々と出てきていたのだ。


「ソラ様、さあ……」

「あっ、危ないっ!」

「『森羅滅却』!」


 シルヴィアさんが大剣を振りかざしたが、見たこともない斬撃の闇魔法はその大剣ごと貫通してシルヴィアさんの脇腹を刈り取った。


「ゴボッ……」

「シルヴィア様っ!?」

「私に……構わず、早くっ!」


 自分のことで呆けている場合なんかじゃなかった。

 僕はやっと曇りきっていた自分の思考から、今僕がすべき使命を思い出した。


『っ――こんとんたるっ……じゃをぉっ、ことごとくっ……とりはらいたるかみよっ……!いまひとたびっ、われにちからをぉっ……わけあたえたまえぇぇっ!――』


 まだ震えが止まらず、立つこともできず、生まれたての小鹿のような手で、杖を掴むのすらまともにできていなかった。

 口ががくがくして塞ぐこともできず、開いた口や目から、穴という穴から、この世界への、受け入れがたい全てへの拒絶反応とばかりによだれやら涙やら何やらがあふれでてくる。


 さっき耳に聞こえてきた幻聴が、耳なりのように頭に残っているのだ。


 せっかく別の世界に逃げてきたのに、また僕は姉に怯えるだけの日々を過ごさなければならないのだろうか?

 僕はそんな絶望に似た感情で、あんな幸せを知ってしまってはもう二度目は耐えられないと、生きる意味を失いかけていた。


 罵倒に始まり、皮膚を引っ掻く音、耳の前で空気をおもいっきり込めて手を叩く音、骨を削る音、爪を剥ぐ音。

 耳が敏感な僕のことを弄ぶように虐めるその一挙手一投足が全て甦ったように鮮明に僕の脳裏に焼きつくのだ。


 それが詠唱だったのか、はたまた心の叫びだったのかは分からない。

 それでもエルーちゃんが僕の腕をがっちりと固定してくれたおかげで、僕は杖を離さなかった。


『――救済の悪魔払いえくそしずむ・おぶ・さるべーしょんっ!!――』


 いつの間にか無意識に腕から魔法陣へと貯まりきっていた魔法を発動させると、僕の身体の内側から突如発生した光の球体は加速度的に一瞬のうちにきゅいっと音を立て、国を覆うくらいのただ真っ白な空間へと変わっていった。


 球体の中に居る僕達にとって、それがどれくらい大きいのかもわからない。


「すごい……」


 真っ白な空間は、10分くらいかけてやっとかすかに辺りが見渡せるくらいになってきた時、もうリッチは一体もいなかった。


「おっ、終わったぁ……!」

「お疲れ様です、ステラ様」

「ありがとうございます、奥方様。しかし、リッチ同士が合体するなんて、初めてのことですね……。奥方様?」


 僕は何の支えも持たなくなると、そのままどさりと倒れた。


「奥方様っ!?」

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