閑話154 悔しさ
【橘涼花視点】
「頭が高い、低頭せい」
「っ!?」
ソラ様と指導試合の後、突然来たご老人が私達に放ったのはなんと重力魔法だった。
エルーシア君とソラ様が『青龍様』と呼んだその竜族のご老人こそ、神獣・青龍様。
「この中で、誰もおかしいとは思わんのか?本来聖女を守るための親衛隊が、聖女に守られておるのだぞ」
「…………」
あんなにソラ様に鍛えていただいたというのに、私はまだソラ様の足を引っ張っている。
だがそれは、心の奥底で聖女様には敵わないのだと、我々親衛隊が、民が、思っているからに他ならないのかもしれない。
「でも青龍、人には人のペースがあるんだ。それを崩しても良いことはないよ……」
「わっはっはっ!とんだ過保護じゃのう!守るべき者にここまで言われて、何も言い返せないとは」
「っ……」
「なら儂のように災いが急にやって来たとき、お前さん達はそうやって指を咥えて見ておればええ。今のお前さん達はいざという時に役に立たない、おままごとの世界でやっていればよい」
「――霊気…………解放――」
「涼花さんっ!」
こんな状況でも、エルーシア君は立っている。
模擬戦とはいえ、彼女は一度ソラ様に勝っているのだとソラ様はとても自慢気に話していた。
そのお話を聞いたとき、私は彼女に天賦の才があるからだと思っていたが、私はただの盲目だったのかもしれない。
重たい身体を、動かない足を、負けじと徐々に持ち上げる。
半ばそれは、敗けを認めず、力を求める亡者のごとくみっともない姿だったことだろう。
「はぁ、はぁっ……いくらっ青龍様といえどっ……!そのお言葉には了承いたしかねますっ!」
「ほう……少しは歯ごたえのありそうなニンゲンもいたものよの」
「はぁ、はぁ……青龍様方、何故……こちらへいらした?」
だが、そこで私の意識は途絶えた。
「よもや気力だけで立つか。見事なり」
「り、涼花さんっ……!」
次に起きたとき、もうソラ様はいらっしゃらなかった。
「……」
やっと守る立場になったと思ったのに、また私は守られてしまった。
私は母上に置いていかれたあの時と、なにも変わっていなかったのだ。
「悔しいか、小娘?」
「はい、青龍様……」
大切な人を守るためにはもっと、もっと強くならなければならない。
「儂なら、お前さんにしかできないことを教えてやれる。だがその代償は高くつくぞ」
「もとより私は聖女様に二度救われた身。聖女様を守れないのなら死んでも構いません」
「その言葉に、二言はないな?」
「はい!」
「よい。なら後日ここに参れ。おい、戻るぞ」
そうして神獣様方は帰っていった。




