第571話 寿命
「一刻を争います。私は先に……」
<絶対ダメよ!>
エリス様の声に呼応するように、シルヴィアさんが道を塞いだ。
「どうしてですか?」
「奥方様、リッチが群れると、どうなるかお分かりですか?」
「……『擬態を解いた時の、開幕の即死咆哮が防げなくなる』、ですか?」
開幕の即死咆哮はレベル90を越えていれば無効化できる。
しかしそれはあくまで即死の無効化であって、少なからずダメージは受けてしまう。
そしてそのダメージの基準は魔防や防具によって減らせるものの、ダメージは1より下にはできない。
リッチ単体なら問題なくとも複数体となれば即死魔法の定数ダメージで体力が尽きてしまう可能性があるのだ。
また複数体で放つ即死咆哮は、魔法障壁も効かず、リフレクトバリアでも弾けない。
咆哮のタイミングが同時ではないため、一つ目を弾き返せても二つ目以降のタイミングと合わない。
リフレクトバリアや障壁などのバリア魔法は、連撃や集団戦にとことん弱い。
「そうです。私はそれで何度も死にました。我が主の蘇生術がなければ、今頃は……」
「……」
「奥方様は、私とは違いひとつしか命がないのですよ」
「なら、私が死なない安全な方法で解決します。それなら問題ないでしょう?」
<その方法はダメよ。それを使えば、ソラ君の寿命が縮むわ>
……エリス様は気付いているだろうね。
僕の心の中を知っているのがこれほどやりにくいとは思わなかった。
「それでも私の寿命で、たくさんの命が助かるんです」
「じゅ、寿命……!?」
エリス様の声が聞こえていないエルーちゃんが、遅れて反応した。
「でも今のエリス様では、あのリッチの群れは倒せないのでしょう?」
<ど、どうしてそれを……>
「この間柊さんの異世界転移を行ったでしょう?それに、もしエリス様達で解決するのなら、朱雀に頼る必要もなかったはずですから」
<っ……>
「いくらエリス様の頼みでも、それは聞けません。力ずくでも通らせていただきます」
「お待ち……ください」
「り、涼花さん……」
意識が回復していたらしく、僕の腕から離れた。
「私を……連れていってください」
「ならん。儂がどうしてわざわざここで『超重力』を使ったか、何も分かっとらんのか」
「……これに耐えぬようでは、死にに行くだけだと?」
「そうじゃ」
「……」
「ごめんなさい、涼花さん。でも大丈夫です。すぐ行って帰ってくるだけですから……」
僕としても仲間は多いに越したことはないが、少なくとも体力と魔防についてはカンストしていないと、最初の咆哮が耐えられない。
酷いことを言うようだけど、僕はそれを庇いながら戦うのは無理だ。
「ソラ様、ご一緒いたします」
「エルーちゃん……」
「私なら、大丈夫なのですよね?」
「正直エルーちゃんが居てくれるのは凄く心強いけど、本当に大丈夫?」
「私の知らないところでソラ様が傷付くのは、もう嫌なんです。それにステラ様は、私の妹弟子でもあるんですよ」
「……そうだね。じゃあ行こっか」




