第569話 返還
「少しは歯ごたえのありそうなニンゲンもいたものよの」
「はぁ、はぁ……青龍様方、何故……こちらへいらした?」
魔防を疎かにしたツケが回ってきたのは確かかもしれないけど、それだって順番の話で、涼花さんだって今上げている最中だ。
「朱雀を返してもらおう」
「……どういうことだ、ジジイ?アタシは帰らねぇぞ」
「お前さんも既に分かっておる癖に。朱雀が消えた土地が今どうなっておるのか、知らぬわけなかろう?」
「……」
「えっ?いったい、何の話……?」
「神獣は人と馴れ合うに非ず……」
青龍の視線が変わり、黄色い目が映すものが変化した。
「よもや気力だけで立つか。見事なり」
「へっ?」
その言葉に音もなく、横で立っていた存在がふっと消えるように倒れ込んだ。
「り、涼花さんっ……!」
僕よりも大きな体を慌てて両手で受け止め、回復魔法を使う。
「ソラ様……朱雀様を……」
そう言って涼花さんは、意識を失った。
「青龍っ!朱雀は私の親衛隊です!連れていくにしても、ちゃんと理由くらい説明してください!」
「ならん」
「どうして……」
しばらく沈黙が続くと、じゃりという音がどこかから聞こえてきた。
「はぁ、馬鹿馬鹿しい……」
その静寂を破ったのは、白虎だった。
「そもそも、旦那を出汁に使うのすら度しがたいというのに。どうせ見ているのでしょう?シルヴィア」
美しい金色の髪と真っ白な天使の羽が透明な状態からすうっと写り込んでくる。
まさか、すぐ隣にいるとは思わなかった。
「えっ、シルヴィアさん……?」
「奥方様……」
いつもとは違う、冷たい目をしていた。
「シルヴィアさん、教えてください」
「お聞きになられても、行動に起こさないとお約束いただけますか?」
「それは……聞いてからじゃないと答えられませんよ」
「もう諦めたらどうですか?どうせこのお人好しは何を言っても行くでしょう」
「朱雀の縄張りに、リッチがわんさかおるんや」
「「玄武!」」
白虎に横槍を入れたのは、やる気なさそうに胡座をかいて寝ていた玄武だった。
「どうせいつかバレるんや」
「朱雀の縄張りに、リッチ……?ど、どういうこと?」
南国にある朱雀の縄張りは、人っ子一人いない山奥のはず。
「魔物が、おるやろ?」
「あっ……」
そうだった。
ソレイユが冒険者王国と呼ばれる理由は、魔力を発する神樹の周りにわんさかと魔物が集まってくるからだ。
「つまり、死んだ魔物の魂を、リッチが食らって増殖……」
「そうです。朱雀が居なくなったことで、抑制する者が居なくなった。お前たちが余計なことをしたせいですよ」
「そ、そんな……」




