第568話 青龍
「五月蝿い。朱雀、お前は黙ることも出来んのかい」
「お前みたいなアツくないヤツには分からんだろう」
「他者を温度でしか計れない奴に言われとうないわい」
「朱雀、主人を悪く云うようなら、お前でも赦しませんよ」
「ったく、付き合ってられんわ……。ワイはパスや」
「ちょっ、ちょっと、玄武まで……仲良くしなよ……」
お年寄りが怒っている姿は、僕にとってヒヤヒヤする。
「黙れ下郎。神々の会話に割り込むなど許しておらんぞ」
「やっぱり、あなたは……」
僕が答えを言うより先に、龍の角を持つそのお爺さんは鱗の輝いた綺麗な右手を僕たちに向けた。
「頭が高い、低頭せい」
「「「っ!?」」」
突然の魔法に親衛隊やアレンさん、そしてマルクスさんまで、隊長クラスでさえも立つことを許されずに地に這いつくばってしまう。
そして、涼花さんもがくりと膝をつく。
これは、僕が使えない無属性重力魔法と呼ばれる『超重力』だ。
神獣達を除けば、この中で立っていたのはエルーちゃんだけだった。
「ほう、この魔法で立つものがいるとは……。玄武、卿のところはきちんと育てているようじゃな。感心したぞい」
「知らんわ、ワイが育てた訳やない」
玄武がそっぽを向く。
「せ、青龍様、お戯れを……」
「玄武の加護を持つ小娘、力を持つ者として謙虚であることはニンゲンの世界では美徳かもしれぬが、時に強かであることは必要よ」
「含蓄あるお言葉。肝に銘じます……」
どうして神獣はこう、いつも強気なもの言いなのかな……。
いや、神様だしそういうものなのか。
「特級・範囲強化」
「ん……?おおっ!」
「動けるぞ……!」
「これがソラ様のお力か!?」
「青龍、この人たちは私の大切な人たちだ!いくらあなたでも、私の大切な人に手を出すことは許さないっ!」
「まさかっ、この御方が……神獣・青龍様っ!?」
突然の出来事に対し驚きつつも皆、頭を垂れていた。
それは敵わないと悟ったのか、はたまた敵意がないと悟ったのかは分からない。
「愚か者、お前さんと戦う気はない」
「えっ……」
「ふっ、そんなこと言って、ジジイもソラに勝てないこと知ってる癖に」
「だからおまえは鳥頭と云われるのだ」
「なんだと!やんのか!?」
「御前は黙ってなさい、朱雀」
「あ、こら!ちょっと!」
「ソラもそれをやめなさい。それでは彼らの罰になりません」
「白虎、どうして罰なんか……」
白虎に連れていかれる朱雀と僕。
僕の魔法が切れると、再び『超重力』がかかって皆が這いつくばる。
「この中で、誰もおかしいとは思わんのか?本来聖女を守るための親衛隊が、聖女に守られておるのだぞ」
「「…………」」
図星とばかりに皆が黙って俯いていた。
いや、単に立ち上がれないだけかもしれないが。
「でも青龍、人には人のペースがあるんだ。それを崩しても良いことはないよ……」
そう言うと、青龍はわっはっはと笑い飛ばした。
「とんだ過保護じゃのう!守るべき者にここまで言われて、何も言い返せないとは」
「っ……」
「なら儂のように災いが急にやって来たとき、お前さん達はそうやって指を咥えて見ておればええ。今のお前さん達はいざという時に役に立たない、おままごとの世界でやっていればよい」
「――霊気…………解放――」
「涼花さんっ!」
魔力の灯火が半透明な煙となり、糧となる。
その糧と共に涼花さんは重力に逆らうように、徐々に立ち上がっていた。
「はぁ、はぁっ……いくらっ青龍様といえどっ……!そのお言葉には了承いたしかねますっ!」
「ほう……」




