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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第567話 後隙

「っ……」

「ほら、動かないでください」


 涼花さんの怪我を回復魔法で治す。


「切れた腕すら治す聖女様の魔法は、やはり凄いな。これならいくらでも怪我できてしまうな」

「切れた部位を復活させられるのは、せいぜい一時間以内です。そんな戦法、絶対にダメですからね!」

「分かっているさ」

「上には上がいるんだな……」

「あんなの、どうやって勝てばいいんだよ……」

「化け物過ぎるだろ」


 試合を見た親衛隊の皆さんが各々の感想を呟いていた。

 あの、聞こえていますからね……?


「しかし、あんな戦闘術があるとは……」

「本当に偶然見つけた仕組みなんですよ」


 ゲームで初めて奥義を会得したとき、その威力の高さに驚いて、「あれを使い続ければ最強じゃん」と思ったのだが、奥義の後隙をどうすることが出来ないため、そのまま使っては弱いことが判明した。

 だが奥義の終了と同時にアイテムボックスに『鬼丸』をしまい、もう一度取り出すと、なんと後隙が消えたのだ。

 だが再度『鬼丸』を取り出したときに解放バフは消えてしまい、奥義を使うには解放バフが必要なため、もう一度「霊気解放」と発する必要があった。


 これは『霊気解放』した後に刀を手放すとその一秒後に自動で『霊気解放』を解除するようになっており、敵に『鬼丸』を奪われてしまった時などに解除されないと魔力を吸われ続けてしまうことを防ぐための安全装置みたいなものだ。

 継続的に魔力を消費する類いの機能を備えた武器は基本的にそうなっている。

 武器以外にも神獣・鳳凰の使う『七魔覚醒』などがあるが、あれは安全装置がついていないタイプで、セフィーが『臨画』でコピーしたときにそれで死にかけたのは、安全装置がなく際限なく魔力を吸われ続けたからだ。

 『七魔覚醒』は本来ならば鳳凰しか使えない。

 鳳凰は神獣なため、死という概念があまりなく、逆に言えば鳳凰が一度死ねば勝手に『七魔覚醒』が止まるから、死ぬことそのものが、『七魔覚醒』の安全装置の役割を果たしていたのかもしれない。

 神獣はそれでいいかもしれないけど、僕たち人にとってはたまったもんじゃないな……。


 ともあれ折角後隙を消したのに、再度詠唱が必要になり結局後隙が生まれてしまうとは皮肉なものだ。

 しかし、その問題は思わぬ方法で解決した。


 お遊びで『鬼丸』の二刀流をしていた時、片方で『霊気解放』をすると、両方の刀で奥義が使えたのだ。

 刀を抜かなくても『霊気解放』は出来るため、解放状態を維持するためには『鬼丸』を帯刀しているだけでいい。


「あれはアイテムボックスありきで成り立つ戦術ですからね」


 アイテムボックスでないと、使い捨てするくらいしか方法がない。

 鞘と分離した状態で取り出せばすぐに使えるし、アイテム袋と違って手元に出せるのが何よりの強みだ。

 現状、アイテムボックスを使える聖女の特権ともいえる。


「確かにそうかもしれないが、何かのヒントにはなりそうだ」

「でしたら、いくつか鬼丸をお渡ししましょうか?」

「ああ、頼……」

「要らん」

「「っ!?」」


 年寄りの男性の少ししゃがれた低い声が訓練場に響き渡って振り向くと、そこにいたのはとても立派な鹿の角のようなものが頭に生えたお爺ちゃんと、神獣・玄武と神獣・白虎、それにエルーちゃんがいた。


「おっ!ジジイにババア、それに蛇亀まで!何でここにいるんだ?」


 朱雀がジジイと言ったということは、この人は……!?

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