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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第565話 記帳

「ともかく、お話しますよ」

「お話?」

「勉強じゃなくて、ですか?」

「お話で合ってます」


 悪口ではないんだけど、今の柊さんにお勉強を教えても、頭に入ってこないと思うしね……。


 僕はアイテムボックスからノートと紙を取り出した。


「柊さんは、ゲームでのダメージ計算方法をご存じですか?」

「ゲームが自動でやってくれていたから、覚えてないです」

「ですがゲームではダメージの数値が出ていたでしょう?あれは主にステータスと武器と練度が関係しています」


 僕はノートの左側に「(ステータス+魔力消費量+武器ステータス)×武器の倍率×練度」と記述する。


「真桜ちゃん、今『知力』いくつ?」

「えっと、480!」


 世界一強い0歳児だろうな……。

 いや、そもそも0歳児が戦ったりしないから、同じ土俵に立てる人はいないんだけどね。


「例えばディバインレーザーの魔法を放つ場合、ステータスが『知力』、武器ステータスが『漆黒のワンド』なら20、武器の倍率は1.25、練度はその人が何回ディバインレーザーを過去に1000回放っていれば0.1倍になります」


 最初に書いた基本式の真下の一番左に、真桜ちゃんが漆黒のワンドを持ってディバインレーザーを放っている絵を描く。

 その右に「(攻撃ステータス+魔力消費量+武器ステータス)×武器の倍率×練度」の形に倣って、「(480+100+20)×1.25×1.3」と記述する。

 練度は試験範囲ではないけれど、ついでだ。


「3000回以上ディバインレーザーを放った場合、こうなります。ここから防御する側は装備の持つ魔防率で割ってからステータスの魔防を引くだけです」


 そして一番上に書いた公式の「×練度」の右に「÷武器防御率-防御ステータス」と続ける。


「魔法学の計算問題は、これさえ覚えていれば解けます」

「なるほど……。でも、これを覚えるのは……」

「全部覚える必要はないですよ」

「えっ」

「柊さんもゲームはやっていますよね?」

「は、はい」

「強い杖装備はみんな『×(かける)』と『+(足す)』がそれぞれついていたのを覚えていますか?」

「そういえば……」

「防具や服などの装備も、『×(かける)』と『+(足す)』がそれぞれあったでしょう?こうやってどの値が足す、引く、掛ける、割るものかが分かったら、あとはまず最初に足すものを全部足して、足し終えたらそれと掛けて割って、最後に引き算をするだけです」

「そ、そっか……。私は、難しく考えすぎていたんですね」

「試験問題では『魔法抵抗物』とか難しいことを書いてますが、私たちにとっては『ダメージを割ってから引く防具』という認識でいいんですよ」


 ゲームをやっていた人達は、自然と試験に必要な最低限の知識が身に付くようになっている。

 だが柊さんはその知識である「ゲーム用語」が試験で使われている「試験用語」へと変換できていないと思われる。

 折角楽して覚えた知識なのに、生かさずに一から覚え直すのでは勿体なさすぎる。

 だから今の柊さんに足りないのは、その紐付けだ。


「この用語が頭の中でゲームの時のどれにあたるのか思い出せれば、大抵のことはなんとかなると思いませんか?」


 ゲームはひとつの画面にいろんな情報を表示する。

 現実世界では数値や文字が浮かび上がるなんて出来事はないのだから、意外と現実よりゲームの方が多くの『情報』に触れていたりするものだ。

 たった三ヶ月だとしても、何百回も同じような画面を見ていれば、流石に嫌でも頭の中にその情報は入ってくるだろう。

 僕と真桜ちゃんがすべきことは、それを掘り起こして、試験用語と結びつけてあげることだけだ。


「あ、そういえば魔法で描く手もあったのか……」


 前世の癖でノートは手で書くものだと思っていたけれど、魔法の世界に来てまでそれを貫き通す必要はないんだよね。


「……是非手書きで書いてくださいっ!」

「なんで……?」

「ついでにサイン書いて!」

「いや、意味分からないですから……」


 書道を習っているわけでもなく、お世辞にも綺麗な字とはいえないはずなのに。


 エリス様やシルヴィアさんが狂ったように喜んでいたけれど、僕の書く文字は人々を狂わせる何かがあるんだろうか?

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