第564話 部屋
手頃なお部屋がなかったので、僕の部屋に案内した。
「私の部屋で申し訳ないですが、今はメイドさんもいないですから。こちらです」
「そ、天先輩の部屋に連れ込まれて……」
「きゃー襲われるー」
「あんなに女の子扱いしといて、今更何言ってるんですか……」
都合良すぎだよ、ほんと。
「でも、男の人の部屋に入るのは初めてで……」
そう言われた僕ははぁ、と息をついて扉を開ける。
「これを見て、同じことが言えますか?」
「えっ……?」
そこは見渡す限りのピンク。
フリフリの天蓋も、ベッドも、ソファも、テーブルも、全部白かピンクで彩られており、シャンデリアのような照明がある部屋。
……僕の部屋とも言う。
「…………」
今更ながら、他の部屋にしておけば良かったと少し後悔したが、どうせここで生活していればいつかはバレることだ。
「……罰ゲーム?」
「ひ、ひどいっ……!」
柊さんの率直な感想が僕を傷つけた。
「せめて女性からは肯定的な意見が欲しかったのに……。男が子供の頃に秘密基地に憧れるみたいに、お姫様みたいな部屋に住んでみたい願望があったりしないんですか?」
正直姉を見てそんなことは微塵も思わないのだが、うちの家庭で常識を語るのは間違っていると、この世界で多少なりとも学んだつもりだ。
「さすがに、これはちょっと……」
「そういうのは本当にごく一部よ。ソラちゃんは、どうしてこんな罰ゲームみたいな部屋を受け入れたの?」
「真桜ちゃんまで……そんな、みんなして罰ゲームって言わないでよっ!」
最近思い出ができてほんの少しだけ愛着が湧きはじめてきたのに……。
「でも、男の子なら拒絶してもおかしくないと思う」
「まあ、あの時はタイミングを逃したというのもあるけど……」
あの時、エリス様に振り回された聖女院の皆さんがあまりにも不憫すぎて、多少のことは飲み込む必要があった。
あれ以上エルーちゃんを問い詰めるのは、流石に可哀想すぎてあの時の僕にはできなかった。
「でも、私にとってはこんなでも、実家に比べれば天国のような場所ですから……」
「「…………」」
僕がそう言うと、二人の聖女は俯いてしまった。
僕達三人とも、実家には良い思い出がないということは聞いている。
「そうですね……。私が間違ってました」
「ソラちゃんなんて私よりひどいし……。ほとんど監禁状態でお金も何も渡さないなんて、あんなの毒親の塊じゃない」
いや、義母とはいえ事故に見せかけて家族を殺す方が毒親だと思うけど……。
特殊なことをしていたせいか、僕の家族の話は何故かニュースになってしまいみんな知っているらしい。
あんな恥ずかしい家の生まれだって知られるだけで嫌なんだけどな……。
「まあでもこれは絶対にエリスの悪趣味だろうし。ソラちゃんも早く言わないと、従者達がこういうの好きって勘違いするよ」
「やっぱりそうなんだ……。今度、ルークさんにお願いしてみよう……」
「残念……」
……なんで?




