第563話 懇願
「つまり、柊さんの試験の成績が良くなくて落ちそうだから、みんなで柊さんの試験勉強をお手伝いしていたと?」
「はい」
まさかそんなことになっていたなんて……。
「学園の試験を落ちた人は流石に、歴代でもいなかったような……」
ああでもさっきルークさんから証拠隠滅の話を聞いてしまったし、もしかしたら抹消されただけで本当は居るのかも。
「やっぱりそうなんですね……。皆さん頭良すぎですよ……」
「というより、数学と英語以外は、あのゲームをやっていれば分かる知識しかないんです。もし数学や英語が壊滅的だったとしても、他が全て7割くらい取れていれば合格できるんですよ」
「私、あのゲーム3ヶ月しかやってないですから……」
「うーん……でも、聖女は皆さん今まで学園に関わる必要があるんですよね?でしたら、聖女院や聖女の特権で何とかならないんでしょうか?」
あまりこういったことは言いたくはないけれど、エリス様のお願いだし、使えるものは使うしかない。
真桜ちゃんが椅子に立ちながら僕の鳩尾をペシペシしてくる。
「ルークに一応聞いたんだけど、『関わっていれば学園生である必要はない』らしいのよね」
あ、そっか。
「在学して関わる」以外の方法もあるって言ってたっけ……。
じゃないと、そもそも学生の年齢で転生できないこともあるもんね。
でもそれって「年齢的に通えるのに通えない」のとはまた別だよね。
それは、柊さんがあんまりじゃないかな……。
「でも真桜ちゃんが教えているなら、問題なさそうですね」
真桜ちゃんの過去のことはちょっと聞いているけれど、前世の真さんは僕なんかよりもずっと頭の良い私立の進学校。
時期的には入試の手前くらいの時期の転移だったから、僕なんかよりも数学と英語の試験については記憶に新しいだろう。
「それが、全然分からないんです……」
「えっ」
「私、教えるの下手かもしれん……」
「ええっ!?で、でも真桜ちゃん、以前マヤ様に魔法教えてたよね?」
「あの娘、一を話せば五くらい理解してくれたから……」
確かにマヤ様も三年生で次席を取るくらい頭良いからなぁ……。
頭が良いからといって、それイコール教えるのが上手いとはならないのかもしれない。
そこで躓いたことがなければ、なぜ躓いているのかが分からないもんね。
「でも、もうそんなに時間は残っていないですし……」
僕も特待生とはいえ学園はサボりたくないし、何よりこの時期は会長の仕事が山のようにある。
「ね、ソラちゃん!おねがい……」
「くぅ……可愛いっ……!」
僕の細い手首の直径にも満たない長さの掌を合わせて、一生懸命お願いのポーズを取る真桜ちゃん。
「私も学園があるので平日は無理ですから……真桜ちゃんに教え方のヒントを託すことにしようと思います。別の部屋に行きましょうか」
「やった♪」
「私達も、ご一緒してよろしいでしょうか?」
「いや、多分二人は一緒にいない方がいいかな」
「そ、そんな……!?」
「いや多分、東子ちゃんには逆効果になっちゃうかな。今から話すことは、二人にとってちんぷんかんぷんだろうし……」
「?」
「とにかく、東子ちゃんはエルーちゃんがお勉強を見てあげて。試験勉強大丈夫そうならセリーヌちゃん達と休憩しててよ」
そう言って僕は真桜ちゃんを抱え柊さんの部屋を出た。




