閑話150 共倒れ
【リリエラ・マクラレン視点】
「放電花火」
「「ギャアア……」」
私の回りに居た稲妻の木がどさりどさりと倒れていく。
「はぁっ、はぁっ……」
「まあ、及第点でしょう」
「はぁっ、ありがとう、ございます……」
ひたすらに、魔物を倒すだけの日々が続いていた。
「リリエラ、お前はどうして強くなりたいのですか?」
私のお師様である白虎様が私に訊ねてきた。
その深海のごとき青き目は、私をすべて見透かしているかのようだった。
シエラさんと居た時に交わしたお言葉から察するに、白虎様は他人のお心がある程度読めるのだと思う。
このお方に嘘はよくないと悟った。
「親友と、肩を並べたかったのです。彼女は学生でありながら教師をしており、同じクラスの学生達との交流が少なくなっておりました。教室を出ていく時の彼女が、いつも寂しそうだったのです」
「肩を並べたとて、あれの秘密主義は治らないでしょう」
「白虎様の方が、シエラさんのことお詳しいみたいですね」
折角義妹になったというのに、これでは少し妬けてしまう。
「あれは単に私を祖母と重ねているだけです」
「ふふ、あんなに甘えているシエラさん、初めて見ましたわ」
その日の夜。
「んんっ……」
違和感を覚えて目が覚めると、抱き枕が落っこちていた。
これがないと眠れないなどと言ってしまえばまたメリッサに冷やかされてしまうが、もう諦めている。
最近では婚約者のルーク様を出しにして「ルーク様にそのお姿を見せられますか?」と聞かれるまでがお小言ルーチンとなってしまっている。
いっそのこと、抱き枕の変わりにルーク様を……。
って、私は何を考えているのだろうか。
その時、キシッと木の床が軋む音が聞こえてくる。
「え……」
もしかして、幽霊……?
怖さと正義の心が入り交じり、私はベッドから起き、寮の部屋を出て下に降りる。
音を便りに一階に行き、そーっと、そーっと近付くと、幽霊の正体は枯れ尾花でもなんでもなく、天使のような義妹だった。
「んくっ、んくっ……ぷはぁ……」
なんというか……シエラさんは一々仕草が可愛らしすぎる。
淑女であろうと気を付けている私でさえ、圧倒的可愛さというものを感じてしまう程だ。
そういえば、シエラ先生に色々と戦闘実技について教えていただいたことに感謝を伝えていなかったとふと気付く。
流石に飲んでいる途中に声をかけるのは不躾であると思い、やや待ってから声をかけた。
「シエラさん……?」
「んっ……!?」
何故かやや間があって、シエラさんはコップを洗面台に置き去ろうとする。
「お待ちになって、シエラさん!」
「えっ」
この機械を逃すと感謝の気持ちを伝えそびれる不安に刈られ、私が止めようとした時に事件が起きた。
「きゃあっ!」
「ちょっ、わわわっ!」
シエラさんが私が塞いだところを無理やり通ろうとした結果、シエラさんはつんのめってそのまま前に倒れそうになる。
「っ……!?」
私はシエラさんがキッチンにぶつかると思い慌ててその手を掴んだが、同時に倒れそうになった私はシエラさんが勢いよく引っ張ってきた。
一瞬抱きついたところで残りの力の行き場所を失った私たちは、そのまま横に倒れていた。
「きゃあっ!?」
「ん……」
気付けば私は、シエラさんのことを押し倒していた。




