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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第557話 人柄

 いつもの僕なら動揺していたかもしれないが、今回は至って正常だった。

 決意を固めてから、むしろ僕の心は安定している……と思う。


 理由としては、もう嘘をつかなくてよくなるという安心感があるからかもしれない。


 そもそも前世で偽ることのなかったド正直人間であった僕が、たった一年ちょっとで嘘をついて平気でいられる程に変われる筈がないのだ。

 そのせいで前世では家族にいいように扱われていたかもしれないけれど、だからといってそれまでの生き方なんてそう簡単には変えられない。


 あとはいつか覚悟していたことなだけに諦めがついていたというのもある。

 お祖母ちゃんの作ったこの学園を去ることに比べれば、僕が嘘つきで嫌われるなんて

 今に始まったことでもないしね。


 ……なんか僕にとって大切な何かを忘れているような気がするが、きっと些細なことだろう。


「試験、始めっ――」


 初めはひどい成績だった聖女史も、二年間でこのようにすらすらと解けるようになった。

 僕はほとんどの教科はゲームと前世の知識だけで出来てしまっていたが、聖女史はこの世界に転移した歴代の聖女が何を成したのかという歴史。

 当然それは前世で僕が知る由もない。


 正直前世でもあまり歴史関連の教科は得意ではなく、特に世界史なんて延々と出現してくる横文字に初めはちんぷんかんぷんだった程だ。

 でも聖女史は僕と同じ前世の同じような境遇の女性達が自分の趣味に時間を費やしたり、前世の文明や文化を広めたり、かたや世界のため、愛するもののために力を振るったり。

 まるで僕やサクラさんのように他人の窮地を見過ごせない、損な役回りの人達が悩んで悩んで、考えた結果の出来事をまとめたようなものなのだ。

 同郷の人達が発展させたこの国の歴史を聖女を通して知ることは、僕にとって新鮮なことだった。

 

 少し悲しいのは、古い文献ほどあまり資料が残っておらず、お祖母ちゃんの頃の記録は殆どない事だった。

 学園を設立して教育を施し、孤児院を設立したというくらいの情報しかなく、それ以上のことは何も学べなかった。


 実は聖女史という教科が生まれたのは、この世界の神様と聖女の関係、そして聖女がしてきたことをよく知り、民が今後の聖女に無礼を働くことのないように人となりを学ぶためだと伝えられている。

 しかしそれはあくまで表向きの、「民が聖女史を学ぶ理由」。

 聖女学園で聖女史を必修教科にしているのは僕たち聖女自信が、過去の聖女がしてきたことをこうして学ぶためだと、お祖母ちゃんが決めたのだそうだ。


 第2代聖女のエイミー・アゼリアさんが学園に通っていた頃、卒業したあとの進路に悩んでいたらしい。

 普通なら「年に一回の仕事だけやってあとは遊んで暮らそう」となってもおかしくはなさそうだが、そこは歴代聖女の『人柄』なんだろうなと思う。


 民も勿論卒業後の進路の問題はあるが、聖女は民と違って仕事をすることが強要されていない以上、何をするか余計に迷ってしまうのだと思う。

 そうしたことから、聖女自身や民が聖女史を学ぶことで過去の同郷のしてきたことから興味を引かれることを見つけて、将来何がしたいかを探す手がかりになることを望んでいるようだ。


「そこまで」


 紙の入れ物容器の隣にある魔石のようなものに魔力を込めると、解答用紙が自動でふわふわ浮いて、先生の解答用紙の入れ目のようなところにすべて集まる。




「はぁ、憂鬱……」

「シェリーはギリギリを攻めすぎだよ……」


 まあSクラスを維持できているから文句はないけど、それにしてもギリギリだ。


「次なんてもっと憂鬱です……」


 次の戦闘実技は、先生方との集団戦。


「シエラ・シュライヒ、エルーシア、両者前へ」

「「はいっ!」」

「ああいや、お前達は……100点でいい」

「「へ?」」

「魔術大会で実力は皆知っているし、全員で総力戦をしても勝てるとは到底思えない。わざわざ試験をやるまでもないだろう」

「むしろ、アタシたちが棄権する。お前達と試合なんてしたら、アタシたちが潰れて、この後の試験ができない」

「むしろ戦闘実技の講師してもらいたいくらいよ……」

「「……」」


 うんうんと頷くのはなんと先生だけでなく、何故か生徒の皆さんもだった。

 ……ひどいよ。

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