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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第555話 貞操

「いつつ……」

「だ、大丈夫ですか!?」

「頭をちょっと打っただけです、大丈夫ですよ。頭は冴えてしまいましたが……」


 ステータスのお陰でなんとかリリエラさんの下敷きになって守ることはできたけど、問題は別にあった。


「愛らしい淑女なのに、まるで護衛のような振る舞いをするのですから。今までは平民だったかもしれませんが、今のあなたは貴族なのです。まず自らの安全を確保することを心がけなさい」

「そう言うリリエラさんだって、私のこと引っ張ってきたじゃないですか」

「私は良いのです、今は身分が下なのですから……」

「あの、退いてくださらないと動けないのですが……」


 僕がステータスの力で勢いよく押し返せば逃れられるかもしれないが、それではリリエラさんを怪我させてしまう危険性がある。

 端から見ると、男の僕がリリエラさんに組み敷かれて動けないでいる状態であることに気付くと、その顔が近くて思わず顔を横にそらす。


「そんなかわいらしい反応をされたら、またキスしてしまいたくなってしまいますね」

「ちょっ!?何言ってるんですかっ!?」

「このままキスしてもよろしいかしら?」

「ダメダメ!駄目に決まっているじゃないですかぁっ!!どうしてこうリリエラさんはっ!貞操観念がゆるゆるなんですかっ!!」


 これは出会った頃からそうだ。

 他の事はしっかりしているのに、貞操観念だけが抜け落ちている。


「だって私たち、家族になるのでしょう?今から唾つけてもよろしいかと思って」

「唾の付け方が間違ってますっ!!」

「それに()()()なのだから、キスくらい挨拶でする子もいますわ」

「そ、れは……」


 僕が言い返せないことを了承と受け取ったのかは分からないが、リリエラさんの手が僕の唇に触れる。


「ちょおぉっ、待って……!本当にだめっ!だめぇっ……!」

「可愛い、私の義妹(いもうと)……」

「ひ、ひゃぁんっ!」


 リリエラさんの端麗な顔が近付いてくると、耳元でそっとそう呟かれる。

 それは耳が壊滅的に弱い僕にとって不意討ちのようなもので、力が入らなくなってなす術がなくなってしまった。


 もう何度貞操が危うくなったことか分からないが、これも嘘つきの運命なのだと僕は諦めの境地にたどり着いていた。

 その時だった。


「あら?シエラさん……」

「?」


 近付いてくる顔が止まってくれたかと思ったら、リリエラさんの口からとんでもないことを言われたのだ。


()()()()()()()()()()()()

「ほあぁっ!?!?!?」


 一瞬、言われた言葉を飲み込むのに時間がかかってしまい、思わず変な声をあげてしまった。


 しまった、今転んだことでズレたのか。

 しかもそのままリリエラさんのキスのせいで心が乱れ、ウィッグが引っ付くように魔力を注ぐのを無意識にやめてしまっていたらしい。


 なんたる偶然、なんたる最悪。

 最悪と最悪がドミノ倒しのように連鎖した結果、逃れられない証拠を残してしまった。


 急に真顔になった僕は自らのウィッグに触れ整えると、なんとか物理障壁を張ってリリエラさんを押し退けた。


「きゃっ!」


 はじめからこうしておけばよかった。

 僕の馬鹿……!




 リリエラさんはそっと冷酷な顔をしてこちらを睨み付けてくる。




 宣告の刻が来てしまった。


「シエラさん、あなた何者なの……?」

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