第553話 膝枕
「これが、『雷鳴の杖』……」
クラフトで生成して出来上がったのはまるで帯電しているかのようにほのかに光輝く杖。
これこそが雷属性の威力を底上げしてくれる杖武器だ。
「ここに居ればこんなものいくらでも集まります。感心してないで精進なさい」
「は、はい!」
リリエラさんは大量の雷鳴の木を相手しながら避けては倒し、避けては倒しを繰り返していた。
確かにここの魔物はレベルが高いけれど、雷属性と無属性しか使えないリリエラさんにとって、レベルが高い雷属性の敵を相手にするのはかえって時間がかかって仕方がない。
「効率悪いですよ、あれ」
「ですが私が口を挟まなければ、これより更に効率の悪い方法を取ることになっていたでしょう?」
「う……」
本当に、僕が考えていることの一歩先の回答をして来る……。
心を読んでくるのは、白虎が雷の神獣であるからだ。
雷属性の使い手は熟練してくると雷を纏うようになるらしく、それが微量ながら神経に作用し、閃きや先読みの能力が身に付くといわれている。
「今お前がしていることが自殺行為だという自覚はあるみたいですね」
「わ、わかってますよ。でもどうしようもないですから」
リリエラさんがレベルを上げてしまうと、僕はバレる確率が高くなるということだ。
「私の事、いつから気付いていました?」
「最初からですよ。お前、よくそれで隠せていますね」
「私もどうして隠せているのやら。よく分かりません……。ですが、私は年配者に嘘はつけませんから」
「それは良い心がけですね」
「単にお祖母ちゃんっ子だっただけです」
僕の視線が白虎に移ると、縁側からリリエラさんと寧さんを眺めていた。
見た目は白い虎人族だけど、その佇まいは僕のお祖母ちゃんになんだか似ていて、気がつくと僕はその膝の上に左手を置いていた。
「その手は、何ですか?」
「ええと……その……甘えても、いいですか?」
流石に恥ずかしくて顔を覆うも、左手は彼女の手にかかっていた。
「はぁ……私はカエデではありませんよ」
「わ、分かってる……ん、だけど……」
上目使いでじぃっと見つめていると、白虎はやがてはぁと大きなため息をつきながら僕のことをひと撫でした。
「お母様にも頼まれては仕方がありませんね。ほら、いらっしゃい」
「やった♪ありがと!」
感謝の言葉が先だったか、膝枕しに行くのが先だったか。
<エリス様、ありがとうございます>
<…………>
返事は帰ってこなかったが、いつも僕を見守ってくださる恥ずかしがり屋な女神様に感謝の言葉を伝えながら、僕はリリエラさんの姿を目で追うのだった。




