第6話 回顧
「――えっ!?プレイ時間カンストしたの!?」
「はい……。アイテムも貴重品以外は大体……」
はじめてぎょっとするサクラさんを見た気がする。ただの残念な廃人話は恥ずかしいので切り上げたい。
「も、もしかして……回復薬も……?」
「秘薬までは3桁の上限まで……。神薬はあのゲームでは最大10個までしかないみたいでしたから、それだけです」
「……」
ぽかんと固まってしまった。
エバ聖では初級、中級、上級、最上級薬がそれぞれあり、その上にはHPとMPを全快する秘薬があり、一番上の神薬は撒くだけで周囲の全ての状態異常とステータスをもとに戻すというものだ。
「ただの廃人ですみません……」
「なに言ってるの!あのね、そのアイテム、使えるわよ?」
「へっ?」
想わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
「エバ聖のアイテムやステータスは引き継いでいるから。試しにゲームの要領でアイテムを出してみたらどう?」
頭のなかで秘薬をイメージすると、目的の秘薬の入った布袋がどばどばと僕の手元から出てきた。
「うわぁっ!?」
慌ててしまいだす。手に掴んでボックスに入れられることがリアルでできるなんて……。僕は好きなゲームの世界にいる感動を味わっていた。
「本当にいっぱい持ってるのね……」
「これ、一生で使い切れなそうですね……。色々教えていただいたかわりに秘薬50個くらい要りますか?」
どばっと50個出して机に置いておく。 言うな否や、サクラさんはそれをボックスにしまってゆく。
「ありがとう……助かるわ。お礼に先代としてアドバイスしておくと、基本的にシステムはエバ聖と同じよ。アイテムクラフトもできるし、魔法も聖女特有の光魔法しか使えないけど、その辺りのコツは今度教えるわね」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる。神様に代わり、ほしい情報を色々と教えてくれるサクラさんには頭が上がらない。
「いいのよ。同郷の誼だと思って。では本題に入りましょうか」
「本題?」
「ええ。エリスからあなたにお願いしたいことが2つあるそうよ。お願いだから断ってくれても構わないわ……」
「2つ、ですか……」
正直、エルーちゃんの件は怒っているが、それはそれとして神様には面白いゲームをくれただけでなく、そのゲームの世界に連れて来てくれた。それについては少なからず恩義を感じている。
まずは訊いてから考えよう。僕は頷いた。
「一つは、この世界に『聖女』としていてほしいの」
「……役職としての『聖女』ということでしょうか?」
「それも含めて、かな」
それ以外の理由って……
どう考えても聖『女』の方を求められているよね……?
「私……男ですよ?」
「ええ。でも地球からこの世界に転移した人は100人目となるキミを除いてみんな女だったのよ。だから、この国の皆はあなたのことを女性と信じているはず」
ルークさんやエルーちゃんが頑なに僕を男だと認めなかったのはそれが原因か……。
「なにより、あなたは見た目も仕草も可愛らしいから……。敢えて言わせてもらうけれど、その格好とその口調じゃあ男の子の要素が皆無ね」
サクラさんが口調の事は知ってたのか、避けてくれていたのはなんとなく伝わっていたが、他人からみるとやっぱりそうなんだ……。僕の男の部分がどんどん薄れていく……。
そして追い討ちをかけるように、サクラさんはこう続けた。
「もう一つのお願いは、あなたに聖女学園へ通ってもらうことよ」