第499話 無言
「真桜様は、ソラ様が真桜様を視認できず、更に声も聞こえなければ思い出さずに済むのではとお考えになられたようです」
「なるほど……」
今僕が手に抱いているのは、真桜ちゃんなのだろう。
僕が前世から来た人たちを軒並み拒絶してしまったことで迷惑をかけていた。
正直嫌われてもおかしくなかったんだけど、こうして僕に会うための工夫をしてくれているのが嬉しい。
「……」
「真桜ちゃん、ごめんね。私のせいでこんな……」
僕のこと、失望したよねきっと。
「……」
「真桜ちゃん……?」
そっか、僕のせいで喋れないんだ。
そこにいるという感覚は肌の感触ただひとつのみで、他にはなにも感じられない。
もしかしたらこれは真桜ちゃんじゃない別の赤ちゃんかもしれなくて、僕が一人でただ話しかけているだけだと思ったら、なんだか悲しくなってきた。
「うぅ、真桜ちゃん、返事をしてよぅ……!」
「……」
僕は大馬鹿者だ。
僕のせいだ。
僕自身が前に進まないと、きっと真桜ちゃんはずっとこのままなんだ。
このまま真桜ちゃんの存在が感じられなくなるなんて、僕は堪えられない。
「ごめんなさい、真桜ちゃん……。私が間違ってた。私はもう大丈夫。だからお願い、元気なお顔とお声を聞かせて……!」
涙が一滴、透明な存在に垂れると、徐々にすぅっと金と茶の綺麗な生えかけの髪が見えてきた。
「もう、へいき……?」
「うん、大丈夫……。大丈夫だよ……!」
一体化を解除した真桜ちゃんと獏の姿を見て、とても安堵したことを皮切りに、決壊したダムのように涙が止まらなかった。
「おかえり!」
「うん、またよろしくね……!」
柊さんにはまだ面と向かって会える自信がつかないけれど、真桜ちゃん達はもう大丈夫だ。
そもそも真桜ちゃんは転生だから、半分はこっちの住人ともいえるんだけどね。
当時の僕は、それを考える余裕すらなかったということだろうか。
「もういいの?」
「はい。サクラさんもすみませんでした」
「いいのよ。聖女は皆、トラウマのひとつやふたつくらいあるものよ」
そういえばサクラさんのトラウマ話って聞いたことないな……。
真桜ちゃんは転生前に聞いたし、柊さんに関しては多分僕のせいだろうけど。
実はその確認をするのが怖いっていうのもあって、尚更会えないんだよね……。
「私のことはいいのよ。それに、女は秘密が多いほど魅力的って言うでしょう?ソラちゃんも少しは見習った方がいいわよ」
だから僕は男だってば。
しかしカーラさんがいる手前、残念ながら言及することは許されなかった。




