第497話 無垢
「涼花様……?」
暴走気味の涼花さんに、メイドの二人が困惑していた。
「あ、すまない。だがこの空間はとても私なんかが入っていいところではないな……」
「そんなことないです!涼花さんが来てくれて、私……とても嬉しかったですから」
「ソラ様……」
「ええと、私達はお暇した方がよろしいでしょうか?」
珍しくメルヴィナさんが当てられている。
「いや、ソラ様が隠すのをやめたのなら、私もそうしよう」
僕の意思ではないんだけどね……。
まあ世界中に迷惑かけたんだし、そのくらいの恥は仕方ない。
「私もソラ様と似たようにこういった可愛らしいものが大好きでね。沢山のぬいぐるみを集めては自分の部屋においているんだ。……幻滅しただろう?」
「まあ!」
エルーちゃん達は口に手を当て驚くと、何を誤解したのかそそくさと部屋を出た。
「お邪魔虫は退散いたしますわ!」
「ご、ごゆっくり……」
「ちょっと待ってくれ、二人とも。実は私も是非ソラ様に渡したいものがあって来たんだ。二人には手伝ってほしいことがあってね」
アイテム袋から取り出したのは、お花のリボンがついた紙袋だった。
「そちらは?」
「噂を聞きつけて、初めて並んで買ったんだ。ソラ様に是非共有したいと思ってね」
可愛らしい紙袋から取り出した紙箱を開けると、デフォルメされたたくさんのくまさんの無垢な顔がこんにちはしてきた。
「わあぁ……!」
くまさんのマフィンだ!
「『クマフィン』という新商品のお菓子で、普通のクマがチョコレート、シロクマがホワイトチョコベースだそうだ。沢山あるから、シュライヒ家のみなさんでも分けてくれ」
「ありがとうございます。お茶のおかわりをご用意いたしますね」
「お願いするよ」
前世で昔、デパートの店頭に並んでいた光景をよく覚えている。
そこでは実際にガラス越しにお菓子職人さんが作っている光景が見えたんだ。
それこそこの世界での魔法のように、一つ一つの部品が合わさってだんだんと素敵なものが出来上がっていくんだよね。
その時は出来上がる光景だったからよかったけど……。
「でも、こんなに可愛いくまさんを食べちゃうなんて……」
もうずっと飾っておきたいくらいだ。
「っ……」
すると、何故か涼花さんは顔を手で隠し、給仕中のエルーちゃんとメルヴィナさんはお盆で顔を隠そうとしていた。
「ソラ様は、私を悶え殺す気か……?」
「ああ女神様、これが尊みの極み……」
「魔王は一撃で倒すのに、くまさんに負けるソラ様……」
エルーちゃんそれ、笑ってない……?
なんか三人して腹痛を訴えるかのように悶えていたが、やがてエルーちゃんがいの一番に立ち直った。
「大丈夫ですソラ様。お召しになるまえに記念撮影いたしましょう?そうすれば、いつまでも残せますから」
「う、うん!」
みんなでクマフィンと記念撮影をしてから、おいしくいただく。
「あ、あぁ……くまさん……」
可愛いお顔が崩れてしまったときの、僕のとても情けない声が聞くに堪えなかったのか、三人はまた悶え震えていたのだった。




