閑話133 大欲情
【エルーシア視点】
<預言の刻が来た。第102代聖女、柊凛様が御光臨なされる。人の子らよ、来るべきに備えよ――>
御告げが終わりお祈りを終えると、院内がざわめき出しました。
ついに新しい聖女様がいらっしゃるそうです。
ソラ様がいらしてから、毎年のように新たな聖女様がいらっしゃいます。
幸運なことに、ソラ様のご尽力のおかげで聖女様方は皆様ご存命であらせられます。
四代に渡り聖女様が存命であらせられることは、おそらく初めてのことです。
昨年魔王を倒され、今年もその四天王の二体も倒され、どんどん世界を平和にしてくださる大聖女様。
そして正しい魔物学、魔法学を世界に発信し、民に戦いかた、魔物との付き合い方を示してくださいました。
それまでは世界中で魔族や魔物に悲惨な事件をいくつも耳にしましたが、ソラ様がいらっしゃってからはそういった話はてんで耳にしません。
聖女様が増えることで、世界は更に平和になっていくことでしょう。
この新たな聖女様の御告げに、私は驚きはしませんでした。
なぜならこの御告げは、聖女院で聖女様を除いた者達には事前にシルヴィア様より知らされていたからです。
だから「第101代聖女補佐親衛隊」という謎の名目の人材募集を行ったそうです。
これは正式には「第102代聖女親衛隊」の募集であり、「来るリン様の分も募集もついでにしておくように」とシルヴィア様からの御達しがあったためです。
今頃は親衛隊の皆様と、聖女様方が驚いていらっしゃることでしょうか。
私がそんなのんきなことを考えながらソラ様のお部屋のお掃除をしていると、バタンと扉が開かれたのです。
「はぁ……はぁ……」
「ソラ様……!?」
「イヤッ、こ、来ないでぇっ!!」
ベッドに潜り込み、布団を被るソラ様は、何かに怯えていらっしゃる様子でした。
「すみません、ソラ様。失礼いたします」
「いやぁっ……!」
目の焦点が合っていないソラ様に何か違和感を感じた私は、すぐさま布団を取ろうとします。
ステータスが高く、振りほどく手がバチリと私に凄まじい痛みを与えました。
いつもは手加減してくださるソラ様が、その余裕すらなく、私の存在すら敵だと認識しておられるご様子。
私は勇気を出して嫌われることを覚悟でもう一度試みると、今度は嫌がりながらも受け入れてくださいました。
「大変……!?すごい熱!!」
私は、先程までののんきな私を叱ってやりたいと思いました。
「ひいらぎさん……やだ、こないでっ……!」
「……!?」
新たな聖女様の御成が、既にいらっしゃる聖女様に影響を及ぼすことを考えてすらいませんでした。
リン様は、ソラ様がトラウマを抱えてしまわれた時の御方だったのです。
やがてサクラ様からご説明いただき、こうなってしまわれた経緯を理解しました。
同時にソラ様は、サクラ様達が近付かれるとき、ひどく拒絶なさっているご様子でした。
「うぅ……」
そしてそうなってしまわれて2日が経過しても、ソラ様は一向に光を浴びず、飲まず食わずでいらしたのです。
さすがにこのままではいけないと、私は意を決してソラ様を起こしました。
「ソラ様、私です。エルーシアです!」
「エルー……ちゃ……」
「大丈夫です、ここには私以外誰もいらっしゃいません。どうか出てきてはくださいませんでしょうか」
焦点の合っていないソラ様を抱きしめ、安心させると、徐々にお食事を取ってくださるようになりました。
それでも熱は下がらず、1日一回お召しになられるも、それも半分は戻されてしまいました。
私の力不足を感じるも、最悪の事態だけは避けなければと思い、日々を過ごしました。
「エルー、あなたも休みなさい。いくらあなたしかお心を開いていないとはいえ、あなたまでそんなでは、治るものも治らないわよ」
「いえ、私はまだ大丈夫ですから……」
「そんなに泣き腫らして、可愛い顔が台無しよ」
カーラ様にそう言われるなんて、今の私は相当ひどい顔をしているのでしょう。
ソラ様がお辛そうにされる度に、サクラ様から教えていただいたことを思い出して、自分のことのように涙が出てしまうのです。
笑顔、笑顔と心掛けて接すると、私の心が届いたのか、徐々に熱も下がって参りました。
まだ立ちくらみはされるようですが、ここまで回復されたことはエリス様に感謝しなくてはなりません。
「エルーシア様、少しソラ君と話させて貰えないでしょうか?」
セレーナ・シュライヒ公爵夫人がいらしたのは、そんな時でした。
ソラ様の第二の家族であるシュライヒ家のお計らいで、ソラ様はシュライヒ家の御屋敷で療養する運びとなりました。
流石に心配だった私は、私も厄介になって支えることにしました。
「セレーナ様、しばらくお世話になります」
「あら、エルーシア様も、『お義母さん』と呼んでもいいのですよ?」
「え……?」
「だって、本当に『お義母さん』になるかもしれませんでしょう?」
「セ、セレーナ様っ……!」
「お義母さん。何言ってんの、いきなり……」
ソラ様は呆れていらっしゃいましたが、私はこの胸の高鳴りがソラ様に聞こえてしまわないか不安でした。
シュライヒ家にいらしたソラ様は夕食をリラックスしたご様子でお召しになりました。
そしてソラ様がシュライヒ公爵様とお風呂に入られている際、セレーナ様が私にお声をかけてくださいました。
「エルーシア様」
「あの、エルーで大丈夫です。私はただの平民ですから、畏まられるような立場ではありません」
「そう?ならソラ君に倣って、エルーちゃんと呼ばせて貰おうかしら?」
「はいっ!」
シュライヒ夫妻はソラ様のことを「ソラ君」と呼ばれます。
これはソラ様を殿方扱いすることで、常に気を張って女性になりすましているソラ様に安心していただくためだそうです。
ソラ様にとって、御二人は特別な家族なのだと思い、少し羨ましく思います。
「私達でソラ君を、お風呂で癒してあげましょう?」
「へ……?」
「ほら、男の子って、元気にするにはアレが一番でしょう?」
果たしてそうなのでしょうか?
私は聖女様に仕えるために女性のことについては沢山学びましたが、殿方のことについては何も知りません。
公爵夫人のお誘いを断るわけにもいかず何故か後に続くことに。
まるで示しあわせたかのようにシュライヒ公爵がお風呂場から出てこられ、中にはソラ様ただお一人。
私達のことなどは露知らず、お風呂場からはソラ様のとても可愛らしい鼻歌が響き渡ってきます。
よかった、こちらに来てお元気になられたようです。
「えっ……ちょ、ちょっと!?」
ガラガラと扉を開けると、石風呂に入っていらっしゃるソラ様の姿がございました。
すべすべのお肌は、女性の私達でさえ羨ましいほどに美しくあらせられます。
「し、失礼します……」
「う……うひゃぁ……!」
私達は魔法で素早く身を清めると、事前に話し合ったように三人でソラ様を囲うように浴槽に近付き、ソラ様の近くに腰を下ろしました。
暖かくて素敵なお風呂です。
「どうして、エルーちゃんまで……」
「ソラ君だって、思春期の男の子でしょう?」
「皆様で、ソラ様を元気にして差し上げようと思い至りまして」
セレーナ様曰く「男の子なら誰しもが望むハーレム」というものをご体験いただくのだそうです。
ソラ様の周りにはスタイルの良い女性が沢山いらっしゃいます。
それに比べて貧相な私ではあまりお力になれないかもしれませんが、少しでもお元気になればと思い――
「え、えいっ!」
――私はソラ様の可愛らしいお背中に、自らの胸を押し付けました。
「エ、エルーちゃん!?」
「あらあら、大胆!」
「んんっ……」
先が擦れて、思わず声が出てしまいました。
何度も夜な夜な不敬な妄想をして情欲を散らしたその光景が、現実にあるなど信じられないことでした。
こんな下品なことをして、バチが当たりませんでしょうか……?
「な、何を……」
「ソラ様が早くお元気になるように、私も精一杯お世話致しますから……」
「元気の意味が違うってば……!」
私が欲情している場合ではありません。
大事なことは、ソラ様がお元気になられることです。
「まあっ♪噂通り大きいのね!」
「ちょおぉっ……!?」
なんと私がぴたりとくっついてから、ものの5秒で、ソラ様のソラ様は臨戦態勢を取られたのです。
はっきりと拝見することは今までございませんでしたが、ソラ様のお背中越しに見たその光景は、一生忘れはしないことでしょう。
……不敬にも、私自身、後で散らさないといけないくらいには欲情にまみれてしまっておりました。
目の前に、好きな殿方の御体があり、私のせいで臨戦態勢になられたのです。
しかし、今はソラ様が何よりも優先。
そのためなら圧し殺してご奉仕をする所存でした。
「あふぅ……」
「「ソラ様っ!?」」
お倒れになるソラ様を抱きとめると、ソラ様はのぼせてしまわれたそうです。
私達はやりすぎたと反省し、ソラ様をお着替えさせて暖めることにしました。
意識はありませんでしたが、ずっと臨戦態勢でいらっしゃいました。
張りつめていてとても苦しそうでしたが、流石に勝手に楽にして差し上げることはできませんでした。
私が寝落ちしてしまうまでセレーナ様と二人でその御体を暖めておりました。
その日、私は不思議な夢を見ました。
ソラ様が私に対してとても落ち着くお声をかけてくださり、優しく撫でてくだったのです。
お強くてお優しく、しかしとてもお心は繊細で、守って差し上げたくなる御方。
それは改めて恋慕を抱くきっかけとなったのでした。
「んんっ……そあさま……?」
そういえば昨日、私はソラ様の看病を……。
いけない、ご主人様より後に起きるなんて……!
その時、ビタンッと固いなにかが頬に当たる感触がいたしました。
「エ、エエエルーちゃん!?こ、こここれはそのぉ……」
「ソ、ソラ様の……ソラ様が……!?」
朝からとてもお元気な姿で出てこられたその光景を見て、私は昨日の出来事とともに破廉恥な情欲がどんどん募っていくのを感じてしまいました。




