第49話 見舞
「おはようございます」
目を開けると、ぼやけた視界にかつての面影を感じた。
「……おばあちゃん?」
これは夢なのだろうか?
会えなくなったと思っていたのに……。
「おばあちゃん……だぁいすきぃっ……」
僕はつい嬉しくなって、その存在を思いっきり抱き締め、ずっと言えなかった言葉を伝えることにした。
そう、このふわりと感じる背中と柔らかくて大きな胸……あれ?
「お……おおお奥方様っ!?おはおはおおおはようございまままっ……!」
お祖母ちゃんと違う特徴に違和感を感じ目を擦ると、顔を真っ赤にしたシルヴィアさんが僕を抱き締め返しながらあたふたしていた。
「わ、わわっ……ご、めんなさっ……あれっ……」
ふらっと倒れそうになる僕をシルヴィアさんは慌てて背中の羽で包むように支えてくれる。
「奥方様っ!?」
「ご……めんなさい、まだ……ちから……でなくて……」
「当たり前です……私のために、ご無理をなさったのですから……」
「んぅ……」
高熱でまともに思考が働いてない。
かろうじて分かることは、今僕はもの凄く誰かに甘えたがっているということだけ。
そのまま支えてくれたシルヴィアさんに正面から抱きつく。
「はね、ふかふかで……あったかい……」
「お、お、奥方様……おおおお戯れを……」
シルヴィアさんって普段あんなに凛々しいのに、顔が近付くととたんにあわてふためいて可愛くなるからずるいよね。
「シルヴィアさん、かわいい……」
顔を寄せて耳もとでそう呟くと、顔がぼっと一層紅くなった。
「んひぃっ!?お、おお奥方様っ!!みんみみ皆が見ておりますからぁっ!!」
「え……」
そこで初めて寮の皆がいることに気付いた。
「あ、甘えたがりのソラ様っ……!!可愛すぎませんかっ!?」
「なんというかこう……ボクですら母性をくすぐられてしまうね……」
皆帰ってきてた。
今日の授業は終わったらしい。
普段なら恥ずかしいと思っているのだろうか。
今日は本当に高熱のせいで頭が回っていない。
「ふふ……みなさんも、だぁいすきです。いつも、ありがとう……ございます」
「あっ……あ゛あ゛あ゛可愛いい!!」
ミア様のなにかが弾けたらしい。
抱きついてくるのを受け止めると、皆順番に抱擁してくれた。
結局今日は熱で休んでしまった。
流石に雨の日にリルに乗るのは無謀だったみたいだ。
シルヴィアさんは、僕が起きたときに誰もいなくて寂しくないように一緒にいてくれたらしい。
お礼を言うと、
「主の命に従っただけですから」
と言って去っていった。
一人残ったエルーちゃんはフローリアさんの作ったお粥を食べさせてくれた。
「はい、あーん」
「ごくんっ。えるーちゃんも……いつも、ありがとね」
「もう、こんなにふにゃふにゃになるまでご無理をなさるのですから……。心配したんですよ、本当に……」
「ごめんね、えるーちゃん……」
誤魔化すように最後の一口を口に運んでくれる。
「ごくっ。ぼく、えるーちゃんには……ほんとに……ほんとに……かんしゃしてるの……」
「ソラ様……」
「いつもいっしょにいて……みかたでいてくれて、ありがとう」
そう言うと、可愛いおだんごヘアーが揺れる。
「ほんとは……しゅじゅうかんけいじゃ……なかったら、ぼくは……きみのことが……す」
最後まで言う前に、人差し指で口を塞がれた。
「ダメです」
「むぐ……」
「それ以上は、本当にダメです」
仄かに顔が赤かったが、初めて見せる冷徹で真面目なエルーちゃんの顔を見て、僕は少しながら冷静になった。
「ご、ごめんなさ…………こんな……ぼくになんて……めいわくだったよね……」
初めてエルーちゃんに拒否され、僕はしゅんとなる。
「そ、そういう意味ではっ……!ですがっ……!」
「ごめ……んなさ…………。もう……いわないから……ゆる……して……」
「い、今は疲れていらっしゃるのですよ!ほ、ほら早くお休みになりましょう!」
そう言われて寝かせられる。
「おやすみなさいませ」
「おやすみ、えるーちゃん」
部屋の明かりを消して去る前に何かを言っていたが、眠たくてよく聞き取れなかった。