第495話 独白
「お義母様、もう大丈夫なんですか?」
「まだ本調子ではないけど、お義母さん達のお陰で何とかね」
「致すくらいにはお元気ということですね……」
「だから誤解だって、シェリー……」
シル君が僕を見つめると、何か言いたそうだったので促してみる。
「シル君、どうしたの?」
「……お赤飯は必要ですか?」
「シル君!?」
シル君まで何言ってんの!?
「ふふ、シル君が真顔で冗談言うの相変わらず馴れませんわ」
「相変わらず?」
「はい、最近時々挟んでくれるようになったんです。仲良しの証ですよ」
同じ境遇の子達ではあるけれど、反りがあわない可能性があった。
でも彼らは突如家族となった仲間を受け入れ、仲良くしてくれているようだ。
でも僕が把握していないあたり、ちゃんと見守れていないのかもしれない。
「ごめんね、頼りない母親代わりで……」
「頼りなくなんてありません!」
「むしろお義母様は抱えすぎなのですわ。普通、人助け感覚で世界を救ったりしませんもの」
「でも今回は人助けとは関係ないから……」
「柊凛様とのこと、ですよね?」
「え、どうして……」
「院では既にお触れがでております。ソラ様と聖女様を会わせないようにと」
そんな大事になってたんだ……。
「あの、私たちはお互いの『痛み』を分かち合って本当の家族になりました。ですが、私たちはお義母様の『痛み』だけは、すべては存じておりません」
「あ……」
「お義母様の『痛み』のすべてを、私たちに教えてくださいませんか?」
僕は心の奥底で、自分の暗い話はするものじゃないとストッパーがかかっていたらしい。
「面白い話でもないよ?」
――話が一段落したとき、エルーちゃんが紅茶のお代わりを持ってきてくれた。
「ありがとう」
話した内容自体は、僕の中学生以降のすべて。
柊さんに始まり、姉や先輩、同期、後輩に虐められた日々の話。
そしてわざわざ誰もいないであろう高校を選んで受験したにも関わらず、その高校では既に僕の動画は悪い意味で目立っており、稼いでいるのだと噂されゆすられたりする日々。
実際には僕は一銭たりとも受け取っていないのだから、僕は払えるはずもなく、その度に調子に乗っているだのと殴られたりした。
「僕はね、家族から内外で虐められるように仕向けられたんだと思う。そしてその引き金になった演劇での出来事が、トラウマになってしまったんだ」
「そんな……」
「……」
シェリーが、恐る恐るといったように訊ねてきた。
「……お義母様は、そのトラウマに立ち向かいたいとお思いなのですか?」
僕は聖茶を口に含み、一息ついた。
「……以前ならそうしていたかもしれないけど、今はわからなくなっちゃった。柊さんは別に悪くないんだと思うけど、思い出すだけで身体が震えて仕方ないんだ。あの頃に戻りたくないって、心が訴えかけているような、そんな感じかな」
「別に無理やり前を向く必要はないんじゃないですか?」
「セフィー……。でも、逃げてちゃ公務が止まっちゃうよ?」
エルーちゃんはお盆をアイテム袋に仕舞うと、こちらに向き直した。
「過去に聖女様同士、そりが合わないことは御座いました。アオイ様のように、院から出るという手段も御座います。ソラ様には、お逃げになることが悪いことだとは思っていただきたくないのです。聖女院は、いえこの世界のすべての民がソラ様に望むのは、どうかそのお心が休まることのみです」
エルーちゃんの言葉に、みんなが頷いた。
確かに僕は、どうにかすることばかり考えていたかもしれない。
「でも……それでも、ずっと逃げ続けることはできないと思う」
「でしたら、味方を増やしてはいかがでしょうか――」
シェリーの話した内容は、僕にとってとんでもないことで、また僕は頭を悩ませることになるのだった。




