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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第7章 慷慨憤激
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第48話 双聖

 心底残念だった。




 ふたりの親にも、エリス様にも。




 セラフィーさんもシェリルさんも、そしてシルヴィアさんだってそうだ。

 あれは()()()()()()()()だ。

 あの頃の僕は、ただ親のいいなりになっていればいいと思っていた。

 僕はやりきれない思いを募り、それがだんだんと憤りに変わっていることに気付いた。

 冷たい雨は、それを冷やしてくれる味方のように感じた。




 ピシャアと近くで雷が落ちる。


 


 それからしばらくすると、どこからか声が聞こえてきた。


<――告げる>


 この声……シルヴィアさんかな?

 拡声魔法のようだ。

 そういえば聖女や天使は神の代わりにお告げをすることがあるって聖女史に書かれていたけど、それかもしれない。


<オルドリッジ伯爵とゼラ男爵は自らの子供に体罰をし、あろうことか良民に毒をかけ、さらには大聖女ソラ様を侮辱した。エリス様は始終をすべてを見ておられた。二人の伯爵位と男爵位はエリス様の名の本に、これを褫奪(ちだつ)する>


 結局剥奪になったんだ……。

 二人も姓がなくなるのかな?


<エリス様は常に世を見ておられる。これ以上、私とエリス様を失望させるな――>


 悲しそうで、凍てつくような声だった。

 



 地図のとおりに進むと、やがて大勢の空を飛ぶ魔物が見えてきた。


 というより、傘を差したサクラさんが魔物相手にディバインレーザーを放っていた。


「サクラさん!」

「あら、ソラちゃん!ちょうど良かったわ。私と手をつないで」

「えっ?」


 そう言うとカッパを取り出し着て、傘を閉じた。


 良く分からないがいわれるがままに差し出された両手を繋ぐ。

 すると二人の間から白色の球体が広がってゆく。


「これは……聖女結界ですか?」


 聖女結界は自分の最大魔力以下の体力をもつ魔物を弾き返す結界だ。

 一定時間で切れるが、ここでは市民を守るために使ったほうがよいだろう。


「そう。私もこっちに来てから知ったんだけど、聖女二人で張ると二人の最大魔力の合計になるみたいなのよね」

「なるほど……」


 オフラインゲームだから聖女が二人になることはなかったし、それは分かりようがないね……。


「……さっきシルヴィアさんに会いましたよ」

「あらシルヴィに会ったのね。ってことは、さっきのお小言(お告げ)はそういうことね……」


 両手をつなぎながら話をする。


「サクラさんも、どうして私に教えてくれなかったんですか?」

「……ソラちゃん、なんだか怒ってる……?」

「当たり前ですっ!!魔物退治なんてそんなの、最も(廃人)に任せるべきでしょう!?それなのに……シルヴィアさんを酷使するなんて……」


 適任者がここにもて余しているのだから、使える時には使うべきだと思う。


「それは……」

「さっき、寮の皆に私がソラだってバレました」

「えっ!?どうして!?」


 心底驚いている顔だ。

 そんな、『僕がバレるなんてありえない』みたいな顔されると複雑なんですけど……。


「半分以上はシルヴィアさんのせいではありますが……」

「あんの馬鹿っ……!ごめんね、ソラちゃん……」

「いえ、それは時間の問題だったのでいいです」


 事実、ちょっとだけ気持ちは楽になった。

 それでもまだ僕はシエラがソラであることなど比にならないほどのとても大きな嘘を皆に隠していることにかわりはないのだけれど……。


「そうではなく、その時シルヴィアさんが私を『奥方様』と呼んでいたのです」

「はぁ……あの子ったら……」

「それが気になって寮の皆に確認したのですが、皆()()()()()()()()()()()()()()と」

「……」


 サクラさんは黙って繋いだ手をぎゅっと握ってくる。


「サクラさんが教えてくれなかった時に私がそれを呑み込んだのは、それがサクラさんだったからです。でも、シエラがソラであることも知らなかった寮の皆ですら知っているということは、このことは()意外全員知ってるってことですよね……?」

「……」


「神様は、どうして私にだけ隠すんですか?今魔物が攻めてきていることだって、全部私に伝えてくれれば……動けたのに……」

「……」


「もしかしてエリス様は、私のことが……嫌い……なんですか?」

「……」


 無言を貫いているのか、広げた結界の制御に集中しているのかわからなかった。


「サクラさん!!聞いてま……」

「あなた達はっ!…………きちんと、話し合った方がいいと思うわ……。もう私、見ていられないもの……」


 食いぎみにそう言い放ったサクラさんの顔つきは、なんだか哀しそうだった。




「とりあえず、今はこっちに集中して!」 

「……わかりました。どうせなら、まとめて倒しちゃいましょう」

「えっ?何を……」


 僕はサクラさんが握る手に力を込める。

 すると大きくなった聖女結界は自分達を包み込むような球体の状態からまるでミカンの皮を剥くように切り取って、皮状の結界が反り返る。


 空一帯の魔物をすべて包み込んでいくと、やがてそれは蓮の花の蕾のような形となり空の魔物達を閉じ込めた。

 

「まるで芸術ね……。そだ!ソラちゃん、折角まとめたんだし……合成最上級、撃たない?」


 見上げるサクラさんにそう提案された。

 合成魔法はゲームでもあった機能だが、聖女は二人いないので最上級の合成なんて初めてだ。

 それにちょっと惹かれてしまった。


「何を撃つんですか?」

「折角空に集めたんだから、()()()()()()()()()()()()?」

「なるほど……」


 頷いた僕とサクラさんはお互いに『大精霊の大杖』を取り出し、向き合って地面を突く。


『『――現世(うつしよ)の万物を覆滅(ふくめつ)せし神よ、今ひと度吾等(われら)に力を貸し与えたまえ――』』




 180度ずれた魔法陣が重なり、新しい魔法陣を作り出しているようだった。

 そのまま天に大杖を掲げ、合成最上級魔法を放つ。




『『――ホーリーデリート!!――』』




 空に延びた極太の光は、蓮の花の形をした結界よりも太い円筒となり、その空間の魔物から雨の原因だった雲まで全てを消した。


 雨雲の穴から差し込む光がサクラさんを照らし、とても神秘的に見えた。


「……私が説得する。だから、今は信じて待ってくれる?」

「……分かりました」






 サクラさんとともにリルに乗り朱雀寮に戻ると、皆が出迎えてくれた。

 第一声に何を言われるんだろうと、僕は気が気でなかった。




「「おかえりなさい!」」




 ああ、僕はまだここにいていいんだ。




 そう思うと、緊張の糸がぷつんと切れた。




 ツケが回ってくるかのように雨風に打たれた時の寒気を感じ、そのままエルーちゃんの胸元に倒れた。


「「ソラ様っ!?」」




 驚く皆に、エルーちゃんはそっと包み込んでくれた。


「お疲れ様でした、ソラ様」

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