第45話 天使
だ、誰だろう……?
その女性は、涼花様とはまた違うベクトルの……そう、可憐さを持っていた。
鍛えた肉体と引き締まった身体。
そして涼花様に負けず劣らずの大きな胸。
ただ二つ人間と違うのは、フカフカそうな白い天使の羽が背中にあり、それに頭には金色の天使の輪っかをつけていたことだった。
そして唯一すべての状況を理解したエルーちゃんは、こう言った。
「だ、大天使……シルヴィア様……!?」
いや、そんなことは今、関係ない。
セラフィーさんとシェリルさんは大剣によって弾かれた毒を浴びてしまった。
辺りはいつの間にか、辺りの天気が曇りになっていた。
「我が主は今、酷くお怒りになられている。 主の大切な奥方様を陰でいじめるばかりでは飽き足らず、毒まで投げつけるとは……! 貴様ら……覚悟は出来ているだろうな……!?」
わなわなと震え、怒りを顕にし、怒声を放つシルヴィアと呼ばれた天使の女性。
「……ぁ……」
僕の代わりに怒っている人がいたので、僕は逆に冷静になってきた。
震える二人は毒を受けており、それどころではないようだった。
「……この責は、貴様らの死をもって償ってもらう!!」
「ちょ、ちょっと……!」
何が何やら分からないが、死なれるのは困る。
それに、確認しなきゃいけないことがある。
「奥方様……止めないでください! これは我が優しい主様であるエリス様の、唯一の逆鱗に触れた者への制裁です!」
やはりシルヴィアさんは、女神エリス様の従者だったのか。
急に雨が降り、ピシャアッと近くで雷が落ちる。
これは神様が泣いているということなのだろうか?
有無を言わさず大剣を構え、二人に突き出そうとするシルヴィアさん。
「ちょっと待ってください!!」
僕は二人の盾になるようにシルヴィアさんとの間に体を割り込ませた。
「……この者達は親に操られたただの木偶人形ですよ! 聖女様は本来政治利用してはいけないというのに。 それを……あろうことか大聖女さまに向かってやったのです! これは……万死に値します」
「……シエラ君が……ソラ様……!?」
「そ、そんな……!?」
ついに寮の皆にもバレてしまった……。
でも、今はそれどころじゃない。
「エリス様は全てを見ておられました。 マクラレン侯爵との関係を深めるために、オルドリッジ伯爵とゼラ男爵が、自らの子供を使って奥方様を貶めたのです。 これは、こやつらの親が出世欲に溺れた報いです。止めないでいただけますね?」
セラフィーさんとシェリルさんのあの手足にあった痣の理由が分かった今、これは止めるべきだと悟った。
僕は全力で止めに入った。
「奥方様……何故ですかッ!?」
「この子達を殺すことは、私が許しません!!」
この子達は、親に虐められていたあの頃の僕だ。
それを僕が責めることはできない。
いや、僕が裁く相手を間違えさせるわけにはいかない。
僕はウィッグを取りアイテムボックスへしまうと、シルヴィアさんと対峙する。
「この子達に何かするようなら……私が相手になります!」
「…………」
沈黙が訪れ、雨の激しく降る音のみが響き渡る。
「ずるいですよ……。 私には、あなた様を傷付けることなんて……できま……せん……」
「ちょっ、ちょっと!?」
倒れるシルヴィアさんを慌てて支える。
「はぁ……はぁ……」
「なにこれ……! ひどい熱……!」
火傷してしまいそうなくらいの熱だ。
「「ソラ様!」」
寮生の皆が駆け寄ってくるが、手でそれを制止する。
「ごめんなさい、ひとまず話は後で。 皆さん、シルヴィアさんを寮に運んで貰えますか?」
「任せて」
「はいっ!」
事情を知るソーニャさんとエルーちゃんが率先して動いてくれた。
とはいえ、まずはこちらが先だ。
僕は『キュア』と唱え、セラフィーさんとシェリルさんの毒を取り除く。
「あ、ありがとう……ござい……ます」
二人が怯えきってしまっているのを見て、少し申し訳なくなった。
「ふぅ………ひとまず大丈夫です。 ですが、このままだと雨で風邪を引いてしまいますから。 一旦朱雀寮の中に入りましょう」




