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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第6章 道聴塗説
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第43話 豊穣

 翌日の朝。


 メルヴィナさんが朝の支度を手伝ってくれた。


「メルヴィナさん、昨日はありがとうございました」

「いいえ、私はメイドの仕事をしたまでです」


 返事は素っ気ないが、微笑んでくれる。


「そんなにしきりに感謝の感情をお伝えしなくとも、きちんと伝わっておりますよ」


 あ、そっか。感情分かるんだっけ……。

 恥ずかしいことしたな……。


「すみません……。言うつもりはなかったんですが、メルヴィナさんがお姉さんだったら良かったなと思っていたんです……」

「お姉さん、でございますか?」


 流石に姉にしたいという感情は特殊すぎて詠めないらしい。


「それは光栄ですね。私のことは、是非メルヴィナお姉ちゃんと……!」


 ずいずいと詰め寄ってくる。

 なんか早まった気がする……。


「め、メルヴィナお姉ちゃん……」

「!!!」


 メルヴィナさんが驚く。


「やっぱり恥ずかしいのでやめておきます……」

「それは残念です……。ですが、脳内に刻み付けておきました。これでご飯10杯はいけます!」


 僕をおかずにしないでよ……。


「オカズって……そういう意味ではございませんよ?」


 僕の脳内ツッコミと会話しないでよ……。

 何で今の特殊な感情は詠めたのさ……。

 僕はメルヴィナさんがよく分からなくなった。




 僕はお義父さん達が用意してくれた僕の自室に、帰り用の『ワープ陣』を置いておいた。


「ここにワープ陣を置いておくので、お義父さんとお義母さんに自由に使ってくださいと伝えておいてもらえますか?」

「かしこまりました。旦那様も奥様もお喜びになるかと」

「メルヴィナさんも、気軽に聖女院にいらしてくださいね」

「ふふ、ありがとうございます」






 朝食後にメルヴィナさんから緑茶を出される。

 ずずずと飲むと、緑茶の風味が口全体に広がる。


「……おいしい……」


 昨日も出されたけど、ここはお茶が美味しい。


「それは良かった。ここシュライヒ領では、茶葉が名産でね」

「これは新茶といって、冬を越した茶畑の、一番最初に摘んだ茶葉を使っているの」

「冬の間に蓄えられていた栄養と旨みが、この一番茶には含まれております。また、新茶独特の甘い香りも魅力の一つです」


 お義父さん、お義母さん、メルヴィナさんに解説される。

 確かにほんのりと甘くておいしい。


「ちょうど今は収穫時期でね。ソラ君さえよければ、見学していくかい?」

「いいんですか?」

「もちろん!ルーク、案内なさい」

「はい」




 女装に着替えた後、ルークさんに連れられてシュライヒ領の茶畑へ向かった。


 茶畑は奥が見えないほど広い。


「おんやぁ、ルー坊でねぇが」

「おやおやって、大聖女さまも居るじゃないの!?」


 大きな籠を背負ったおじいさんとおばあさんがこちらへ来る。


「こんにちは。凄い量ですね……」


 籠にはいっぱいの茶葉が入っていた。

 向こうの世界では回収機のようなものがあったと思うけど、こちらでは手摘みのようだ。


「こん時期さ新芽の収穫でな」

「みんな忙しくしとるよ。これも領主さまがうちらを拾ってくれたお陰さね」

「新茶、先程いただきました。とてもおいしかったです」

「あら、そいつぁ嬉しいね。向こうに包んだもんがあるから、あとで持ってお行き」

「ありがとうございます。お礼になるかわかりませんが、これ、使ってください」


 『アイテム袋』をいっぱい取り出して渡す。


「こ、こらほど高えもの、受げ取れねぇよ!?」

「いいんです。『アイテム袋』はなくなったらまた作ればいいですから」

「大聖女さま……。ありがどなぁ」


 感謝の印に握手をしてくる。


「ルークさん、あの……」

「もしかして、『豊穣の祝福』をしてくださるのですか?」

「は、はい。してもよろしいですか?」

「断る理由など……。ソラ様がお決めになられたことでしたら」

「では……」


 『豊穣の祈り』は聖女特有のスキルのひとつで、祈りが届いた土壌には、そこに育てる植物に合う栄養を豊富に含むように精霊が管理してくれるというものだ。

 既に収穫中であるものには関係ないけれども、その後から豊かな土壌で作物を育てられることになる。

 大分魔力が持ってかれるが、『魔力が余っているなら、とりあえずその辺の作物の前で祈っとけ』というのが廃人()の考えだ。


『――豊穣の精霊よ、この地に暫しの加護を与えたまえ――』


 両膝を地面について両手を合わせ祈ると、魔力が地面へと吸われていく。


 やがて僕の体から円形の陣が広がって行き、陣の中の土壌から、エメラルドのような色をした精霊が飛び交うようになる。


 陣をこの大きな茶畑を包むまでに広げ終え、僕は一息ついた。


「ふぅ……。流石にこの範囲はしんどいですね……」


 キロ単位で祈ったのなんて初めてだ。

 少しふらつくと、ルークさんが支えてくれた。


「お疲れ様です、ソラ様。大聖女さまの祝福に感謝を」

「ちょっと、休んでいいですか?」

「ええ、お休みなさいませ」


 ルークさんに抱かれたまま眠りについた。






 ぽんぽん……


 ぽんぽん……


 締太鼓の音がしたことに気付き目を開けると、あたりは昼を過ぎ日が落ちようとしていた。

 お囃子の響き渡るお祭り会場へと変わっていた。

 辺りを飛び回る豊穣の精霊を歓迎するかのように、シュライヒ侯爵領の皆さんの唄い踊る光景が映っていた。


「そっか……私、寝ちゃったんだ……」


 僕は知らない人の家の縁側で横になっていた。


「おはようございます。ソラ様」


 上から声がすると、ルークさんに膝枕されていることに気付いた。


「良く眠れましたか?」

「すみません……寝過ぎました」

「あれだけの祈りでしたから、さぞお疲れでしょう。ソラ様はもう少し休むことを覚えた方がよろしいかと」

「ふふ……それ、ルークさんが言いますか?」

「わ、私のことはいいのですよ……」


 縁側で膝枕されじゃれている光景は、はたから兄妹にでも見えるのだろうか。

 ルークさんの膝を借りて横になり、こちらに手を振る皆を見る。


「やっと、兄らしいことが出来ました」

「ルークさんは、いつも優しい()のお兄さんですよ」


 これが主従関係であることに、少し寂しさを感じた。

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