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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第6章 道聴塗説
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第41話 帰省

 休日。

 聖女院に行き、そのまま誰にも会わずに直接浴室に向かう。


 聖女院に戻るとお風呂に入るのが日課になっている。

 まあ寮ではシャワーしか入れないしね……。

 シエラになる必要もなく、だれにも邪魔されず……。

 のんびりとお風呂に入れるここは癒しの空間だ。


 体を洗って大きな浴槽の端に浸かる。

 聖女院の浴槽はフェンリルの顔をした蛇口からお湯が流れており、少し洒落ている。

 

 すると、急に誰かがこちらにくる音が聞こえてきた。

 えっ……まずい!?

 ここの浴槽は女性と男性の利用が時間帯によってわかれていたはず……。

 今は昼だし、どっちだ……?




 ガラガラと浴室の扉を開けたのは、ルークさんだった。


「な、なんだ……ルークさんか……」


 男性の利用時間帯だったようだ。助かった……。


「な、ソラ様!?」


 向こうは心底驚いていた。

 さすがに誰にも会わずに直行で浴室に来たのは間違いだったか。

 ルークさんに挨拶くらいしておけばよかった。


「ちゃ、ちゃんと前……隠してください!」

「いや、顔を真っ赤にしないでくださいよ……。同じ性別ですよ……?」

「あっ……。そういえばそうでしたね。メガネがないとわからなくて、あはは……」


 あははじゃないよ。

 眼鏡がないくらいで人の性別を忘れないでよ……。

 エルーちゃんといい、定期的に僕が男だって言わないと忘れちゃうのかな……?




「先ほどは失礼しました……」


 体を洗い浴槽に入るルークさん。

 書類仕事の多い人だけど、こうしてみると体格はいいんだよな……。

 筋肉も人並みについているし、同じ男としてうらやましい。


 リリエラさんが惚れるのも頷ける、知性的なかっこよさがあるよね。


「気にしないでください……。僕とルークさ……いや、お兄様との仲ですから」


 声のトーンをシエラに合わせて少し上げる。

 ちょっとした仕返しのつもりだったんだけど、


「や、やめてくださいっ!肩まで浸かってその台詞を言われるとなんだか年頃の妹と一緒の風呂に入っているみたいで、色々とまずいです……」


 と言われてしまった……。




「でも僕、ルークさんとサクラさんには感謝しているんです」

「ソラ様が……?」

「僕をシエラにしてくれたおかげで、偽りの自分ではありますが、友達もできたんです」

「そうでしたか。大聖女さまの役に立てているのならば嬉しい限りです」


「だから、名前をお借りしたシュライヒ侯爵家の方々には、お礼を言いたいんですよね……」

「でしたら、直接言ってみるというのはいかがでしょうか?」

「えっ?」

「シュライヒ侯爵領の皆は喜ぶと思います」






 あっさりと許可がもらえ、侯爵領をよく知るルークさんと行くことに。


『――降臨せよ 教皇龍(ハープスト・ドラゴン)――』


 移動は馬車でと言われたが、僕のわがままで御者さんたちや馬に迷惑をかけるわけにもいかなかったので、ハープちゃんに乗せてもらうことにした。


「教皇龍様に乗せてもらえる日が来るとは……」

「私の失敗談ですが、ハープちゃんに乗るときはちゃんと厚着していかないと駄目ですよ」


 僕は白い大きな布をアイテムボックスから取り出してそれにくるまる。

 ルークさんにも渡すと、同じように身を包む。


「じゃあ行きますよっ。ハープちゃん、お願い!」


 キュイーッ!と鳴き声を出し、空に羽ばたく。


「しっかりつかまっててくださいね」


 ルークさんにそう言ったところ、龍につかまるのかと思っていたら僕の腰をがっしりとつかんできて少しびっくりした。

 ルークさん、案外力あるよなぁ……。






 ルークさんの案内のもと、夕方になる頃にはシュライヒ侯爵領に着いた。


「そういえば降りる場所決めてなかった……」


 さすがに飛行機と同じくらいのサイズ感があるハープちゃんだ。

 迷惑をかけずに降りる場所を探す必要がある。


「屋敷の一角に降りて大丈夫ですよ」


 見えてきた屋敷はとてつもなく広く、そんな心配が必要ないくらいだった。

 侯爵領ってこんなに広いんだ……。




 屋敷に近いところに案内され降りる。


「ハープちゃん、ありがと」


 ハープちゃんを送還し、くるまっていた白布を魔法で清潔にしてからアイテムボックスに入れる。

 すると二人の夫婦?と執事さんが近づいてくる。


「ルーク!それに、大聖女さま!?」

「すみません、突然お邪魔して……」


「い、いえ。大聖女さまでしたら歓迎でございますよ。さあ、我が屋敷へどうぞ」


 


「改めまして、シュライヒ侯爵領領主のマーク・シュライヒと申します」


 赤い短髪のマークさん。

 ルークさんの赤い髪はマークさん由来のようだ。


「妻のセレーナ・シュライヒです」


 そして、セレーナさんは白髪でストンと縦に落ちるようにサラサラとした長い髪だった。

 ルークさんのストンと落ちるような長髪はこの人の遺伝か。


「カナデ・ソラです」

「ふふ、存じております」


 そ、そりゃそうか……。


「しかし、急に教皇龍さまに乗られているところを見て驚きましたよ」

「すみません……せっかく二人なのでと思いまして」

「いえ、むしろ龍に乗るってロマンみたいなものですから。ルークが羨ましいです」


 ロマンなのは分かるけど、実際乗ってみると風強いし結構寒いんだよ……?


 白い壁に黒い屋根。

 壁や屋根に小窓が多い作りだ。

 よくある西洋の屋敷のようだが、何より大きいという感想が一番に来てしまう。


「さあ、屋敷の中へどうぞ」


 がちゃりと執事の方が開けると、メイドさんが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ」


 中も外見同様広く、3階建てのようだった。

 中央に見据える2階への階段が堂々と立っていた。


「ここはソラ様の家でもありますから、どうぞおくつろぎください」

「サクラ様にお話をいただいてから、いつソラ様が来てもいいように2階にソラ様のお部屋を用意したのです」


 嬉々として語るセレーナさん。


「妻がすみません……。何せ()ができたようで大層喜んでいたものですから……」

「何言ってるんですか……。貴方だってはじめての()だとか言ってはしゃいでいたじゃないですか?」


 こんなに僕のことを喜んでくれている人達を騙しているのは忍びない気持ちだった。




「服もお部屋に用意しております。今日はお疲れでしょう?ゆったりした格好にお着替えになって、どうぞおくつろぎください。メルヴィナ、案内を」

「かしこまりました。ソラ様、こちらへ」




 部屋は僕に配慮してくれたのかわからないが、あまり豪華すぎる装いではなかった。


「改めまして、侍女のメルヴィナです。よろしくお願いします」


 メガネのメイドさんにそう挨拶される。

 メルヴィナさんは深海を想起させるような髪色で整ったミディアムヘアが特徴の、僕より4、5才くらい上のお姉さんという印象だった。






 歓迎され、安心しきっていたのがいけなかった。


「お着替えをお持ちする前に、失礼を承知で確認させていただきたいことがございます」

「はい、何でしょう?」


「ソラ様は()()……であらせられますよね……?男性と女性、どちらのお洋服を御用意いたしましょうか?」

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