第39話 体制
いつもより朝食を早く済ませ、ミア様とエルーちゃんと学園に向かう。
今日は全校集会の日だ。
前には立つけど、今日は僕は喋らなくていいし、僕も喋る必要がないので安心して壇上に上がれる……。
全校生徒が集まり静かになると、ソフィア会長の挨拶から始まる。
「皆さん、おはようございます。本年から聖徒会会長となるソフィア・ツェン・ハインリヒと申します。本日はお集まりいただきありがとうございます」
壇上には聖徒会のメンバーが皆並んでいる。
「新学期になり、聖徒会も新体制となりました。今年の聖徒会メンバーが決まりましたので、この場をお借りし発表したいと思います」
「まずは三年から。三年、ライラ・クロースさん。昨年に引き続き第一書記を担当してくださいます」
ライラ様が一歩前に出て頭をぺこりと下げる。
「二年、広報委員長。ミアさん。今年から広報を担当していただくことになりました」
ミア様はステージに立つアイドルのように手を振っていた。
「続いて二年、橘涼花さん。昨年は風紀委員長でしたが、今年は第一副会長に就いていただきます」
涼花様はボウ・アンド・スクレープという西洋の紳士がするような挨拶だ。
膝を軽く曲げ、片腕をお腹を抱えるようにし軽く頭を下げる。
涼花様の格好良さと相まって、とても絵になる。
皆集会だからおさえ気味ではあるが、一部生徒からは黄色い声が漏れ出てしまっていた。
「一年、風紀委員長。リリエラ・マクラレンさん。頭脳明晰でとても真面目な方です」
盛大な拍手で迎えられ、リリエラさんがカーテシーをする。
リリエラさん、結構人気があるみたいだ。
「一年、第二書記。エルーシアさん。成績優秀なメイドさんです」
その紹介でいいの……?
しかし拍手は多い。
エルーちゃんも元々可愛いタイプだし、人気があるなぁ。
「最後に一年、第二副会長。シエラ・シュライヒさん」
一部生徒から「ええっ」と言う声が聞こえてきた。
今更だけど、肩書きだけは荘厳だよね……。
僕はエルーちゃんに倣って頭を下げるが、リリエラさんと違って、そこに拍手はなかった。
「シエラさんは私が聖徒会長権限を使用し副会長に就いていただきました。入試でも大変優秀な成績を修めたことは皆さんご存知だと思いますが、大聖女さまのお弟子さんでもあります」
ざわつく生徒たち。
その紹介は胃が痛くなるからやめていただきたい……。
大きな拍手はしてくれたが、それが僕へ向けられたものなのか、会長の聖徒会長権限をしてまで学園に貢献しようとしているその姿勢に向けられたものなのかはよく分からなかった。
「聖徒会のご紹介は以上となります。そして本日はもう一つ、私達聖徒会と大聖女さまからのお願いです」
ソフィア会長は深呼吸をして、続けた。
「実は先日、疫病に見舞われた学園生をソラ様に救っていただきました」
疫病はゲームでも滅多に起こらないからね……。
案の定みんなびっくりしている。
「ソラ様はたまたま知ったので救うことができましたが、今後もそうとは限らないと仰っていました。そして、知る機会が少ないことに嘆かれておりました」
「そこで、『聖女さまの目安箱』を設置することとなりました。学園の不満や先生にも相談できない自身の抱えている問題などがある方は、匿名でもいいので気軽に目安箱に投稿ください。聖徒会で内容を確認し、我々聖徒会で解決できる場合は解決し、聖女さまのお力が必要な場合はご協力いただきます」
会長はミア様にマイクを渡した。
「お悩みとかは聖徒会で相談に乗るので、気軽に書いてみてくださいね!以上、聖徒会からのお知らせでした!」
放課後、掃除当番で遅れた僕は聖徒会室へ向かった。
「遅くなりました。本日は……って、凄い量ですね」
「待ってたよ。はいこれ。こっちがソラ様宛てで、これがシエラちゃん宛てね。ソラ様宛ては弟子のシエラちゃんが判断して貰えるかな?」
「分かりました」
早速、目安箱の利用者がいたみたいだ。
ミア様からもらった投書を確認すると、僕宛てに4つと僕宛てに1つのようだ。
ソラ宛てのものは丁寧に便箋に綺麗な花柄のシールが貼られている。
『入学式で大聖女さまの魔法を見てからというもの、私の心の中の百合の花が咲き乱れ……』って……これ、恋文っ!?
ソラ宛ての手紙を全部確認したけど、全部宛名のないラブレターだった。
横をチラリと見ると、リリエラさんが10枚ほど、涼花様に至っては数えきれないほどのハートが散りばめられた便箋が置いてあり、それを片っ端から読んでいる。
「宛名を書かなくていいことをいいことに、ラブレターを書いてくるとはね……。だが、恋文に紛れて不安や相談話を書いている可能性もあるから、一応全て目を通しておいてほしい」
そういう涼花様だったが、机に置かれている恋文の数に気が滅入っている様子だった。
僕は最後の一通に目をやる。
シエラ宛てはどうやら匿名のようだ。
『虎の威を借る狐』
なんだこれ?
と思ったのも束の間、赤色の魔方陣が作られると、紙は勢いよく燃え盛る。
「熱ッ!」
紙を手放すと、そのまま証拠を残さないかのように消えてしまった。
「何かあったのか、シエラ君?」
「い、いえ……。なんでもありません」
訳の分からない出来事に困惑しながらも、誰にも気付かれなかったので騒ぎ立てることもないだろうと黙っていた。




