第38話 提言
「昨日は聞きそびれたけど、ソーニャ君は結局何があったんだい?」
朝食時、藪から棒にエレノア様が聞いてきた。
「疫病」
「え、疫病だってぇ!?」
大声を上げるエレノア様は初めて見た気がする。
「大丈夫。ソラ様、消してくれた」
「大聖女さまに会ったの!?」
今度はミア様が驚いた。
「は、はい……。私ではどうにもならなかったので、師匠を呼んだんです」
自身を師と呼ぶのはなんともこそばゆい。
「ソラ様、友達」
ソーニャさんはこっちを見てそう言った。
なんともスレスレな会話をして来る……。
「ソラ様とお友達になったの!?」
「いいなぁ……羨ましい」
まさか隣で本人が聞いてるだなんて思ってもいないだろう……。
「エレノア様も、ミア様も、エルーシアも、シエラも、みんな友達」
みんなの手を取りそう言うソーニャさん。
「ふふ、そうだね」
「そうね!」
「はいっ!」
「ちょ、ちょっと……私は?」
名前の呼ばれなかったフローリアさんが訊ねる。
「……お母さん?」
「そ、そんなぁ……」
疫病が治まって、本当に良かった。
放課後、リリエラさんとエルーシアさんと聖徒会室へ向かう。
「リリエラさん、昨日はありがとうございます」
「大丈夫ですよ。私が伝えておきましたから」
自信満々にそう言うリリエラさんは、なんだか頼もしく感じた。
聖徒会室の扉をがちゃりと開けると、どうやら僕達が最後だったようだ。
「来ましたね」
「昨日は、申し訳御座いませんでした」
「いえ、辛い日は言ってくださいね」
……リリエラさん?
あの、会長に何て言ったの……?
……というか別にごまかす必要はなかったはずだよね……?
「実は、同じ寮の生徒が孤児院に行ったきり戻ってこなかったんです。それで孤児院まで探しに行っていました」
「そ、そうだったのか」
「てっきり月の障りかと……」
僕の月が満ち欠けすることはないよっ!!
……僕は王女様から何の心配をされてるんだ……。
「今夜はむぐぐ……」
潮の満ち引きもしていないってばっ!!
何を炊こうとしてるのさ……。
僕は全力でエルーちゃんの口を手で塞いだ。
珍しくエルーちゃんがボケたと思ったら、危ないボケしないでよ……。
……いや、エルーちゃんはボケるようなタイプではない。
エルーちゃん、まさか……本気で僕に来たと思ってないよね……?
一度忘れていた節があるし、僕は心配だよ……。
「その件なのですが、孤児院に向かうと疫病が発生していることに気付いたんです」
「「疫病っ!?」」
「あ、ああ大丈夫です。もう疫病は師匠に浄化してもらいましたから」
「なるほど、大聖女さまが……」
「シエラさんもなったのでしょう!?辛かったでしょう?」
「今はもう大丈夫なのか?」
ああ、僕の方を心配してくれたのか。
本当に優しい人たちだ。
そんな人達に嘘をつき続けるのは、とても心苦しい。
「それで、皆さんに相談があります」
「……何でしょうか、シエラ副会長?」
ソフィア会長が真っ直ぐ僕を見る。
「わた……しの師匠が、『今回たまたまシエラが見付けました。私はこういった事についてなるべく力になりたいですが、私だけで知ることはなかなかできません。ですから、私が気付く機会が欲しいです』……と言っていました」
聖徒会の皆さんがお互いに顔を見合わせる。
「そこで私は相談なのですが、この学園にご意見箱を設けてみませんか?」
「ご意見箱……?」
「はい。生徒の相談や学園への要望などを紙に書いて入れるんです。基本的には聖徒会が答えるようにしますが、師匠の力が必要な場合は私から伝えるようにします」
「なるほど。それはいいシステムだ。だが……」
「それは、ソラ様がそうすることを望まれている、ということでよろしいですか?」
念を押すように会長が尋ねる。
茶番のようだが、きちんと確認しているのだろう。
『これは、シエラとしてではなく、聖女としての言葉か?』ということを。
「はい。ご意見箱のことについても師匠と相談しました」
「でしたら決まりですね!」
「え?そんなあっさり……」
そう思いふと周りを見ると、みんな頷いていた。
「大聖女さまのお墨付きなら、大丈夫よ!」
ミア様、若干聖女様に色眼鏡なところないかな……?
「なにより、学園を良くしようというシエラ副会長の心意気を感じた。皆で協力して実現を目指そう」
「涼花様……!」
「して、ご意見箱の名前はどうする?」
涼花様は会長に意見を求めた。
「…………。そうですね……では、『聖女さまの目安箱』というのはどうでしょうか?」