表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男の大聖女さま!?  作者: たなか
第5章 楊震四知
47/1282

第37話 忘却

 孤児院の外へ出て身体強化でぴょいぴょいと跳ね、屋根にのぼる。


 『(カン)グラス』は病が遠くにある場合も確認できる、眼鏡の形をしたアイテムだ。

 これをかけると周囲に疫病がある場合に黄色く光って見える。


「よし、ないね」


 万が一のことがあるので、辺りを散策してくまなくチェックする。

 そしてそれを口実に、孤児院に戻るのを少しでも遅らせようとしている自分がいた……。





 ……結局、上手い言い訳なんて浮かばなかった。





 『(カン)グラス』を外し、重い腰を上げ孤児院に戻る。


 そこでは孤児院長、孤児院の子供たち、そしてソーニャさんが土下座をしていた。


 そう。


 僕はこれが一番見たくなかった。

 



()()()……。ありがとう……ございました」


 ソーニャさんが慣れない敬語でそう言う。






 力関係のある時点でそこに真の友情はない。






 悟るほどまだ生きてはいないけれども、少なくとも僕の周りはそうだった。

 向こうの世界では僕は常にいじめられる側だったため、僕が力関係の強い方にいることなんてなかったけど、そういうもんだと思うようになった。




 


 皆がこちらを見上げると、不意に涙が頬を伝った。


 せっかく……同じ寮で友達になれると思ったのにな……。






「……()()()も、ありがとう」


 僕はその言葉に目を見開いた。




「ここにいるみんな……()()()()()()()()()()()()()


 絶対に忘れられないだろうに、忘れてくれると、そう言ってくれるんだ。




()()()って……言ったから」




 これは優しい嘘だ。


「うっ……ぐすっ……」


「なかないでせいじょさま」

「せいじょさま、ぼくたちきょうのことわすれるから、げんきだして」


 僕にとって初めての、包み込むような優しい嘘だった。






「本当に、ありがとうございました。ソーニャのこと、よろしくお願いします」


 改めて孤児院長からお礼を言われる。


「いえ、こちらこそ。ソーニャさんは大事な寮生であり、友人ですから」

「シエラ……」

「ふふ、ありがとうございます」


 優しい微笑みを送る孤児院長と照れるソーニャさんに、僕は懐かしさを感じた。


「じゃあ……行ってくる」

「ソーニャ姉、またね!」

「うん……また」

 

 相変わらず返事は素っ気ないけど、とびきりの笑顔だった。






 朱雀寮への帰り道。

 日もとっくに沈み、暗くなっていた。


「孤児院長を見て、少しお婆ちゃんのことを思い出しました」

「初代、聖女様?」

「はい。学校生活がうまくいかなくて、時々甘えてしまっていたんです。そうするといつもああやって優しく私を撫でて、微笑んでくれたんです」


 今となっては恥ずかしい話でも、会えなくなってからは大事な思い出だ。


「でも、もう……親友だから。私、相談に乗る」


 そう言って僕に手を伸ばしてくる。


「ソーニャさん……」




 手を取ると、そのまま距離を詰め頬に口づけをされた。


「へぇっ!?」

「親友の証。()()()()()、したかったけど……()()、怖いから」


 これが異世界のスキンシップなの……?

 というか天罰ってなんだ……?


「シエラ、親友」


 夜の月光でうっすらと見えるソーニャさんの、大きく揺れる尻尾と笑顔がとても神秘的に見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ