第35話 失踪
朝。
下に降りると、ソーニャさんが見当たらなかった。
「おはようございます。ソーニャさんは?」
「それが……一昨日から、帰ってきてないの。外泊許可はしているから多分孤児院に帰っていたんだと思うけど……」
何かあったのかな?
ちょっと心配だ。
「帰りでいいなら、私が見に行きましょうか?」
「ごめんなさい、お願いできるかしら?孤児院への地図は担任の先生に聞けばもらえると思うわ」
「わかりました」
フローリアさんと別れて学園に向かう。
「シエラ嬢、おはようございます」
「おはようございます」
教室に着くと、イザベラさんとリリエラさんが挨拶してくれた。
「おはようございます。リリエラさん、少しよろしいでしょうか?」
「はい」
「聖徒会へ応募されていたと思いますが、私がリリエラさんを風紀委員長に推薦いたしました。勝手で申し訳ないのですが、引き受けてくださいますか……?」
「えっ……!?」
あれ……なんか思っていたのと違う反応。
もっと喜ぶと思ったんだけど……。
「ええと……失礼を承知でお聞きしますが、シエラ嬢は既に聖徒会のメンバーなのですか?」
あっ、そっちの話か……。
「ええと、昨日聖徒会長のソフィア様から副会長に任命をされました……」
「「ええっ!?」」
周囲がざわつく。
だけど、リリエラさんは驚かずこちらを見つめ返してくる。
「ありがとうございます、シエラ副会長」
また大層な肩書きになってしまったなぁ……。
授業は少し上の空だった。
授業よりも、空いている隣の席の方が気になって仕方がなかった。
結局、授業が終わっても、ソーニャさんは来なかった。
「シエラさんっ!ちょっといいですか?」
マリエッタ先生がちょいちょいと教壇に招いてくる。
体と目線を降ろして話を聞く。
「ソーニャさんの件なんですけれど……何か聞いてはいませんか?」
「ちょうど私もお伺いしようと思っていたんです。実は私も休日の初日に孤児院に行くと伺って以降、ソーニャさんを見ていないんです……。マリエッタ先生は何かご存知でしょうか?」
「いいえ……。なるほどっ、孤児院に行っていたんですね。でも返ってこないということは、何かあったのでしょうか?」
しゅんとなるマリエッタ先生。
「あの、実は寮母のフローリアさんに頼まれて、一度孤児院へ確認しに行くつもりなんです。それでその……孤児院の場所ってお分かりになりますか?」
「なるほどっ!わかりました。本当は私が行きたいところですが、ここは同級生のシエラさんにお任せしようと思いますっ!地図、持ってきますね!」
しゅたたたっと走ってマリエッタ先生が出ていく。
「リリエラさん、あの……」
「聖徒会の件は大丈夫よ。会長には私から伝えておくわ。その代わり、ソーニャさんのことは頼んだわよ!」
やっぱり、リリエラさんは少し気が強いところがあるけど、いい人だ。
「ありがとうございます」
マリエッタ先生から地図をもらって学園の外へ行く。
孤児院は学園からも聖女院からも少し遠いところにあった。
孤児院の周りには誰もいなかった。
中に入れば誰かいるだろうか。
中に入っても暗く、しんとしていた。
だれもいないのかな?
奥の部屋に入る。ここは食堂だろうか?
片付けられた食器に僕は誰もいないのだと、そう思っていた。
もしかして地図の場所、間違えたかな……?
隣の部屋は……寝室だろうか?
「……っ……」
人の気配がしたのでそちらを見ると、子供たちと一緒にうずくまるソーニャさんがいた。
「ソーニャさん!」
「嘘……シエラ……どうして……?」
「探したんですよ。……何かあったんですか?」
「ダメ、シエラ……!……来ちゃ……ダメ!」
「うぅ……」
「こほっ……こほっ」
よく見ると、子供たちもソーニャさんも熱を出したように顔が赤く、腕に黒い斑点ができていた。