第33話 休日
「んぅ……」
「おはようございます」
休日。
起きて体を起こすと、いつものようにエルーちゃんの挨拶が聞こえてくる。
「本日はどうされますか?」
「聖女院に行こうと思ってるけど……とくに何かしに行くというわけじゃないから、エルーちゃんも今日は好きに過ごしてよ」
「ご一緒……」
「約束を守ってくれるのはありがたいけど、無理をしてほしいわけじゃないから。たまには休んでほしいな」
「シエラ様……」
僕は着替えてエルーちゃんと下に向かうと、ソーニャさんとフローリアさんがいた。
「おはようございます」
「シエラちゃん、エルーシアちゃん、おはよう」
「……おはよう」
「ソーニャさんも今日はお出かけですか?」
「……うん。今日は孤児院に帰る」
ソーニャさんは孤児院の出だったのか。
「立ち入ったことを聞いてしまってすみません……」
「……いい。どうせそのうちわかる」
朝食を済ませると、外出許可証をフローリアさんに渡してから、部屋に帰る。
部屋のクローゼットの中に『ワープ陣』を置く。
以前のクラッシュボアの件で学んだ僕は、聖女院の自室にアイテム『ワープ陣』を置いておいたのだ。
以前使った『簡易ワープスクロール』は使い切りアイテムだが、『ワープ陣』は使い切りではない。
1桁までしか持てず量産はできないが、何度も行き来する場合にはこちらを使った方が良い。
まあ、こんな使い方をする予定ではなかったんだけどね……。
「エルーちゃんは、今日はどうするの?」
「私は、今日はお買い物に行こうかと」
「そっか。聖女院から行く方が近いし、一緒にワープする?」
「い、いえ……。どちらかがきちんと外に出ていくようにしないとフローリアさんに怪しまれそうな気がしますし……」
効率を求めた結果色々なものを失うところだった......。
「エルーちゃんがいてくれてよかった……」
「ふふ、恐縮です」
エルーちゃんと別れ、聖女院にワープすると、ちょうどメイドさんが清掃をしていた。
「シエラさ……大聖女さま!?」
驚かせて、尻もちをつかせてしまった……。申し訳ない。
一応、シエラがソラだということは聖女院の人たちには共有されている。
「ご、ごめんなさい……。大丈夫ですか?」
「え、ええ。おかえりなさいませ」
とくに用事があるわけでもなかったけど、ひとまずルークさんに会いに行くことにした。
「シエラ様!?」
「……以前から思ってたんですけど、お兄様は、この格好の時は敬称を付けないほうがよいと思いますよ」
「わ、わかりました。シ、シエラ……」
「ええ、お兄様」
にこっと笑うと、わなわなと震えるルークさん。
「ああ、私にもついにこんなにかわいらしい妹が……」
弟だってば……。
金髪のウィッグを外して庭園へ出ると、カキンカキンと遠くから音がしてくる。
野球でもしてるのかな……?
いや、この世界であるわけないか。
音のする方向へしばらく歩いていると、やがて初めて見る施設に来た。
訓練用の剣を交えたり、素振りをしている人、魔法を的に当てている人などがいた。
ここは、訓練場かな?
こんなところがあるなら、エルーちゃんを教えるときに使えばよかったかも。
でもちょっと庭園から遠いか……。
「大聖女さまっ!?」
一人の訓練を見学している騎士?の男性が驚きの声を上げる。
「邪魔をしてしまいすみません。訓練の音が聞こえてきたのでここまで来てしまい……。失礼ながら、こちらは何かの訓練の最中でしょうか?」
「ええ、ここは聖女親衛隊の訓練場っす。ちょうど今は隊長に順番に稽古をつけてもらっている最中っすね」
見ると、隊長と思われる人が騎士二人相手に稽古をつけている。
確か、聖女親衛隊の隊長さんって……サクラさんの旦那さんだったよね?
「うわぁ!?」
「反応が遅い!ほら次は……」
隊長さんが騎士を跳ねのけ剣を立てると、こちらに気づいたようだ。
隊長さんがこちらに来ると、跪いて手の甲に口づけをしてきた。
「お初にお目にかかります、大聖女ソラ様。私は第99代聖女親衛隊隊長、アレンと申します」