第32話 権能
「じゃ、行こうか。 君の歩幅に合わせるよ」
リョウカ様に続き、エルーちゃんと廊下に出る。
「改めて、私はタチバナ・リョウカ。 涼しい花と書いて涼花さ」
「タチバナ……」
「ああ。 母は第98代聖女の橘葵だ。 もっとも、父はただの街の花屋さんだけどね」
葵さんには娘さんがいたんだ……。
「そういう君は、あの大聖女さまの弟子なんだってね。 サクラ様から訊いたよ。 私達はどうやら、聖女様と縁があるみたいだね」
縁があるどころかその本人なんだけどね……。
でも察しがよさそうな人なのに、僕のことはわからないものなんだな。
なんか男としてどんどん自信がなくなってくるよ……。
「そういえば、これもサクラ様から聞いたんだが。 大聖女さまは刀もお扱いになるのかい?」
「ええ……」
何せ2年間遊んでいたからね。
全ての武器を一通りマスターするくらいのことはやっていた。
「ほう。 ちなみに弟子のキミは扱えるのかい?」
「えっ……」
刀……刀か。
ソラと全く一緒だとバレるかもしれないよね……。
あまり嘘をつきたくはないけれど、しばらくシエラは魔法全般だけ使えるってことにしておこう。
「い、いえ。 私はまだ……刀は教わってないです……。 すみません」
正直、心苦しい……。
「そうか。 いや、こちらも立ち入ったことを聞いてすまない。 さ、こちらだよ、お嬢様方――」
涼花様はまるで主賓かのようにエスコートをしてくれた。
◆◆◆◆◆
聖徒会室の扉を開けると、ミア様がいた。
「来たね。 シエラちゃん、エルーシアちゃん!」
「えっ、ミア様!?」
「ミアとは知り合いだったのか」
「ミア様とは同じ朱雀寮なんです」
「ああ、なるほど。 寮生だったのか」
「ふっふっふっ、想像力が足りないぞ涼花クン!」
「お前は何様だ。 さ、中へどうぞ」
ミア様と涼花様は仲が良いみたいだ。
「失礼いたします」
聖徒会室にはソフィア王女の他にも、知らないメンバーがいた。
「聖徒会へようこそ。 まずはおかけになって」
座ると、周りのメンバーも席に座る。
「さて、聖女学園の聖徒会長には特別な権限があります。 それは聖徒会長として1回だけ、学園に関することなら何でもできる権限です」
嫌な予感がしてきた……。
「過去の聖徒会長は校庭に花壇を作って百合の花を植えたり、同級生に告白するためのムード作りを全校生徒に協力してもらう、なんて使い方もあったそうです。 サクラ様が会長だった時は学食に揚げパンがないことを嘆かれ、権限で揚げパンを学食のメニューに追加したそうですよ」
サクラさん、何してんの……?
いや揚げパン、美味しいけどさ……。
「私、まだこの権限を使っておりませんの」
「ソフィア会長、まさか……!?」
「ですから、貴女に使おうと思います」
「は……?」
「聖徒会副会長には2席、用意されています。 基本的には副会長の座を持った2年生は、次期会長となります」
つまり、涼花様は次期会長ということか。
「その副会長の2席目を私の聖徒会長権限でシエラ・シュライヒさん、貴女に着いていただきます」
既に胃が痛い……。
「拒否権はない、ということですね……?」
「縛るようなことをしてすみません。 ですが、私はそうした方が学園のため、そしてシエラさん、貴女のためになるのではないかと思ったからです」
僕の事情を知るソフィア王女が言うのなら、そういうことなのかもしれない。
一応サクラさんよりは信用できるしね……。
「わ、分かりました」
「ふふ、話が早くて助かります。 それと、シエラさんのメイドのエルーシアさんにも書記として枠を用意していますが、どうしますか?」
「シエラ様が入られるのでしたら……私、やります!」
元気良く返事をするエルーちゃん。
一緒にやってくれるって言ってくれるだけでも、今の僕には救いだった。
「ありがとうございます。 では、自己紹介といきましょうか。 私は3年会長のソフィア・ツェン・ハインリヒです」
「3年書記のライラ・クロース。 よろしくお願いします」
眼鏡の女性が淡々とした声でそう答える。
クロースって確か学園長の家だよね?
「ライラ様はクロース辺境伯のお生まれで、学園長の姪にあたるのよ。 私は2年広報委員長のミア」
あの戦闘狂の親族が、こんなに物静かな人なんて……。
いや、それはライラ様に失礼か……。
どちらかというと学園長がどうかしているだけだろう。
「2年副会長の橘涼花だ。 よろしく、お嬢さん方」
「1年のシエラ・シュライヒです」
「1年のエルーシアです。 よろしくお願いします」
「さて、自己紹介が済んだところで。 早速ですがシエラ副会長に最初の仕事をお願いします」
ソフィア会長がそう言うと、ライラ様から紙を数枚渡された。
「こちらは一年生の聖徒会希望者の一覧です。 この中から一名、今年の風紀委員長を決めていただけますか?」
「会長、事情を説明するのが先でしょう? 実は今風紀がいなくてね。 私が副会長になったせいでもあるんだが……。 今は一応私が副会長と兼任しているが、できれば長くいることができる一年生に風紀委員長を任せたいと思っている」
「なるほど……」
ペラペラとめくると、その中に見知った人がいた。
僕は真っ先に信用できるその人を指名することにした。
「私は――リリエラ・マクラレンさんを風紀委員長に推薦いたします」




