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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第2章 一新紀元

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閑話8 橘涼花

橘涼花(たちばなりょうか)視点】

 ――それは、数日前のこと。


 今日は父上がバタバタと忙しない。

 きっとサクラ様が来ているのだろう。


「いた。 涼花ちゃん、おひさ!」


「お久し振りです、サクラ様」


 私のことをちゃん付けで呼ぶのなんて、サクラ様くらいだ。


「もう、堅いわよ。 昔みたいに、サクラお姉ちゃんとか言ってくれてもいいのに……」


「いつの話ですか……。 そんな昔の話、蒸し返さないでください」


 サクラ様は母上が亡くなってから、時々こうして見に来てくれるようになった。


 サクラ様は私のことを「家族みたいなものだから」と言ってくれるが、きっとその影に母上を見ているのだろう。

 私を見て、少し悲しそうな、寂しそうな顔をするサクラ様。


「……また、母上の所へ行かれましたか?」


「……ええ。 ソフィアと……ソラちゃんの3人でね」


「大聖女さまが! さぞ母上も喜んだでしょう」


 母上は5年前、魔王を討伐して亡くなった。

 私はそれを誇らしく感じていた。


 だが、サクラ様は母上が亡くなった責任は自分にあると思っている節がある。

 それを言うなら、力のない私達の責任でもある。

 私達のような弱者が生きていられるのも、母上が守ってくれたからだ。


 聖女の力は遺伝しない。

 私は光魔法も使えなければ、魔力もそんなに多くない。

 唯一母上が褒めてくれた刀術で、私は聖女学園の門をくぐることができた。


「サクラ様。 ()()()()、お願いできますか?」


「ふふ、相変わらず刀が好きね。 そろそろ涼花ちゃんもお年頃なんだから、彼氏とか作ったら?」


「余計なお世話です。 第一、私なんか需要ありませんよ」


「何言ってんのよ。 貴女、後輩に大人気じゃない」


 それは同性の話だ。


 話しながらも庭に出た私達は対峙する。

 私は母の形見である刀を出し、構える。


「では、行きます!――」



 ◆◆◆◆◆



「――はあっ、はあっ……」


「少し腕を上げたかな」


「はぁ、いえ……サクラ様に比べればまだまだです」


 サクラ様がへたり込んだ私に手を貸し起こしてくれる。


「私も刀を教えられれば良かったんだけどね……」


 サクラ様も母上も、聖女のため両杖の魔法使いだ。


 父上も武器を触ったことがない素人だ。

 聞く相手としては間違っているだろう。


 だから刀術については、いつも家庭教師の先生に見てもらっていた。


「あ」


 何かを思い出したサクラ様。


「そういえば、ソラちゃんはオールラウンダーだから、何か知ってそうではあるかも……」


「大聖女さまが……?」


 大聖女ソラ様。

 御披露目式でその可愛らしい姿を見た目を見た。


 生まれてはじめての間隔をそこで覚えた。


 まるで、ぬいぐるみのように愛らしい人形がそのまま息を吹き込まれ、歩いているかのようだった。


 私はそれまで、母上に褒められたから刀を続けていた。

 そして母上が亡くなってからは、力のなかった当時の私を戒めるためだけに刀の技術を磨いてきた。


 とはいえ、魔王への復讐心と言うには中途半端だった。

 私の技術は所詮その程度だし、何より魔王は何度殺しても蘇る存在。

 そんな相手に人生をかけて敵討ちしたところで、暖簾に腕押ししているようなものだ。


 しかし今、その刀を初めて他人のために振るってみたいと思うようになった。


「あの子、魔術は私や葵さんより確実に上だし。 剣も多分アレンより上のはずだしね……」


「なんと!」


 今この世界で一番魔術に秀でていると言われているサクラ様と、剣聖と呼ばれるアレン様。


 あんなに可愛らしい見た目で、魔術だけでなく剣術に秀でるどころか、そのお二人を凌ぐ実力。

 大聖女さまとは、想像以上に凄まじい存在だということか。


「しかし、大聖女さまもお忙しいのでは? 私の相手をしている暇などないでしょう」


 ソラ様はまだ着任されたばかりのはず。


「あ、ああ……。 うーん、確かに当分は……会えないかも?」


 言葉を濁すサクラ様。

 きっと着任したばかりで毎日お忙しいのだろう。


「あ、でもシエラちゃんなら会えるじゃない」


「新入生のシエラ君……のことですか?」


 確か、この間聖徒会室で出会った少女だ。

 大聖女さまほどではないが、とても可愛らしい見た目をしている、成績優秀な一年生だ。


「そうそ! シエラちゃんはソラちゃんの弟子だから、もしかしたら刀術も知っているかもしれないわ」


 既に弟子が、それもとても身近にいたなんて……。


「……なるほど。 機会があれば聞いてみようと思います」


「ふふ、楽しみだわ」


 その"楽しみ"には、何か含みが感じられているような気がしてならなかった。

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