第3話 我慢
ソファに体育座りする僕に、平謝りするルークさんとメイドさん。
もう少し冴えたやり方があったような気がする……。
「聖女さまに恥をかかせてしまうなど……! お怒りもごもっともでございます!!」
「二人とも罰はお請け致しますので!!!」
メイドさんは顔を真っ赤にしたまま無言で平謝りしていた。
「い、いえ、別に怒っているわけでは……! と、とにかく! 誤解が解けたのなら、それでいいですからっ!」
どのみち僕に貰い手なんていないだろうし、お婿に行けなくなるくらい些末なことだ。
「寛大なお言葉、痛み入ります……。 しかし、サクラ様の神託では、ソラ様のことはある程度知られておりましたが、性別についてはとくに言及されていませんでした……」
何かにピンと来たルークさんは捲し立てるように続けた。
「ソラ様さえよろしければ、こちらにサクラ様をお呼びしてもよろしいでしょうか? この状況の理由が何かお分かりになるかもしれません」
確かに、同じ転移者でサクラって名前からするに日本人だろう。
同郷にはあまりいい印象はないのでちょっと怖いけど、同じ境遇なら僕がこんなことになっている説明くらいはしてくれるかもしれない。
「わかりました。 よろしくお願いします」
ルークさんはメイドさんに「あとはよろしくお願いします」とだけ言い残し、そそくさと客間を後にした。
◆◆◆◆◆
って、そうなると、残されたのは僕とさっきのメイドさん。
「…………」
「…………」
ええっと、先程とんでもないものを見せてしまったから、気まず過ぎる。
「その、とりあえず着替えたいのですが……」
元の世界の人と会うのに、パジャマで出迎えるのは流石にまずい。
「えっ……あっ、はい。 そうですよねっ! まずはソラ様のお部屋へご案内いたします」
メイドの女の子は慌てながらも深くお辞儀をする。
「申し遅れました。 私、聖女院でソラ様の身のお世話を担当させていただきます、メイドのエルーシアと申しますっ!」
「エルーシアさん、よろしくね」
「け、敬称など、恐れ多いです……! ソラ様と同い年ですので、気軽にエルーとお呼びくださいっ!」
年齢まで割れているのか……僕の個人情報はいったいどこまでバレているんだ……?
「じゃあ……エルーちゃん、で」
「……はいっ!」
同意を得られたようで、にこっと向日葵のような笑顔を浮かべてくれた。
◆◆◆◆◆
たいそう広い部屋に通されると、立派に飾り付けられたソファーと大きなベッドがあった。
どの家具も白を基調としたフレームにどこか西洋を感じさせ、布地のものは薄いピンクをベースにしている。
誰が見ても女の子の部屋という印象を感じさせる。
「こちらがソラ様のお部屋になります」
うん……まあそうなるよね……。
どんなに部屋がピンクピンクしていようと、僕なんかのためにこんな豪華な部屋を用意してくれるだけ有難いと思わないと……。
「足りない家具がありましたら、申し付けください。 衣服は奥です。 どうぞこちらへ」
奥の部屋を開けると大きなクローゼットとチェストクローゼットがある。
エルーちゃんがクローゼットを開くと、ところせましと女性用の服がかけられていた。
いそいそとチェストクローゼットからインナーや下着を取り出すエルーちゃん。
鼻歌交じりに準備している姿にとても訊きづらいが、女装するよりはいい。
「あの、男性用の服ってある……?」
「あっ……」
その沈黙と泣き出しそうな顔で全てを察した。泣きたいのはこっちなんだけど……。
「あの……私、申し訳…………。 そんな、つもりじゃ……っ!」
膝から崩れ落ち、泣き崩れるエルーちゃん。
そんな大袈裟な。
一瞬そう思ったけど、よく考えるとこれって最高権力者に粗相をしてしまった図になるのかも。
僕なら国のトップに給仕するだけでも緊張で吐く自信があるから、エルーちゃんはすごいと思う。
でも、粗相に関しては流石にエルーちゃんのせいじゃない。
僕が男だって伝えておかなかった神様が悪いのであって、その皺寄せがエルーちゃんに来てしまっただけ。
他人に性別を間違われやすい僕だからこそ、自分こそは同じことを他人にしたくはない。怒る相手は決して間違いたくない。
僕はエルーちゃんの持っていたインナーを拝借し、クローゼットからロングスカートを選ぶと、さっと後ろを向いてパジャマを脱ぎそれに着替える。
エルーちゃんの手元にある下着がちらついたが、僕はその一線だけは越えたくないっ!
「エルーちゃんのせいじゃないのは分かってる。 こんなことになっているのは全部、神様が説明しないのが悪いの。 だから……」
家族の調教のせいで女装すると自然に出るようになった『悪い癖』も今はどうでもいい。
彼女を怖がらせないように静かに怒り、顔は微笑みを浮かべてこう続けた。
「貴女の代わりに、私が神様に怒っておいてあげる」
「っ……!」
同じ境遇のこの女の子を守れないと、僕自信も一生救われない。
きっと、そんな気がしたから――




