第310話 好意
「ふぅ……シル君、ここまでにしよう」
「はぁ、はぁ……まだまだ」
シル君は再びレイピアを構える。
彼はオルドリッジ家やその前の使用人として雇われていたとき半ば奴隷として扱われており、戦闘の教養が一切なかった。
だから、使ってみたい武器を選ばせたところ、レイピアがいいと言ってくれた。
シェリー達の入れ知恵っぽいけど、意見を控えていたシル君が意見してくれるのはとても嬉しい。
体力の限界で倒れそうになるシル君を支える。
「おっと……。もう、無理はダメだよ?」
「ソラ様、まだできますから、回復を……」
そこまで言うと、シル君は眠りについた。
「体力は回復できても、すべての疲れが取れるわけではないからね。寝れるならその方がいいよ。おやすみ、シル君」
シル君を抱っこして屋敷に戻る。
「ふふ、そうしているとお姫様と勇者様が逆転しているみたいですね」
それ、僕がお姫様だって言いたいの……?
「義理でも親として私がしてあげたいだけだから」
「ふふ。シル君としては、『親として』は振る舞って欲しくなさそうですけどね……」
「えっ、そうなの?」
じゃあ何だろう……友人?
でも、確かに年の近い男の友人はいないから、友人と思ってくれるのなら素直に嬉しい。
「じゃあお友達になれるように頑張ってみようかな」
「ふふふ、及第点ですね」
「なんだか、お義姉ちゃんの方がシル君のこと詳しいみたいで、妬けちゃうな……」
「それはお義姉ちゃんですから!」
理由になってないよ、それ……。
「あら、あら、あら?お義母様はもしかして、シル君のこと……好意的に思っておられるのですか?」
「それは好きではあるけれど……」
いや、まさかそういう意味で言ってないよね?
「ふふ、脈アリ……でしょうか?」
「ちょっと、それはシル君に迷惑だよ……」
「そう思ってもないと思いますが……」
僕がシル君の変な性癖開いちゃってたらどうすんのさ……。
シェリーの目線を追うと、抱っこしていたシル君が目を覚ましていた。
「シ、シシシシル君っ!?」
変な会話を聞かれてしまい、どぎまぎしてしまう僕。
下ろしてくださいと言われて素直にシル君をおろす。
「……すみません。私は、まだまだ未熟者ですね」
抱っこされていたのが恥ずかしかったのか、少しだけ赤くなっていた。
「最初はみんな未熟者だよ。でも、シル君はこれからだよ。だって、こんなに頑張っているんだもん」
そのがんばり屋さんの頭を撫でると、恥ずかしくてはね除けられるかと思いきや、恥ずかしそうに顔を赤らめながらされるがままになっていた。
「ありがとうございます」
夕空は、そんなシル君の顔を隠すように照らしていた。




