第305話 義姉
「昼休み、三人で屋上に来てくださる?」
親友からそう言われ、僕は断罪を待つ罪人の気持ちで午前の授業を過ごした。
「来ましたね」
「……」
「先ほどは柄になく取り乱してしまい、すみませんでした」
「私達こそ、ごめんなさい……」
「どうして私に相談してくださらなかったのですか……?いえ、それも答えてくださいましたが、それでも納得はいっていないんです」
それ以上の回答を求められれば、僕は秘密を打ち明けなければいけなくなる。
現状でパニック状態のリリエラさんに油を注ぐようなことはできない。
正義感が強いリリエラさんが、僕のことを許してくれるとはハナから思っていない。
でもそれ以前にこの様子では、僕がソラであることを伝えてしまえば僕ではなくリリエラさんの方が耐えられないのかもしれない。
「……これを提案されたのは、お義母様なのです」
「ソラ様が……?」
「はい。ですから、私のことは責めてもいいですが、かばってくださったお二方のことは責めないでいただきたいです」
「いや、私こそ……」
「……今、もやもやした心の正体がわかりました」
目を瞑るリリエラさんが僕はその時だけか細く美しいように見えた。
「『お互いにかばい合う姿が羨ましかった』」
「えっ……?」
「『もっと私を頼ってほしかった』」
「……」
「『ソラ様と仲良くなった人達は、みんな遠くの存在のように感じてしまう』」
それは、リリエラさんの心の声のようだった。
「私は、嫉妬していたのですね……」
「「リリエラ様っ!」」
ひしりと抱きつくシェリーとセフィー。
「ごめんなさい、私たちが間違っておりました……」
「私の親友を傷つけたことは、簡単に許せることではないわ」
「はい……」
「でも二人が原因なら、きっとシルクの時みたいに私が原因なのでしょう」
「そ、それは……!」
僕が行きついてほしくなかった真実に、リリエラさんはすでに辿り着いていた。
「シエラさん、私のせいであんなことが起きてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
リリエラさんが深々と謝罪する。
同じ侯爵令嬢同士で片方が謝罪をすることなど、一大事だ。
「いえ、リリエラさんのせいではないですよ」
「上に立つものとして、これは謝らなければならないことです。後でお父様からも正式に謝罪をいたしますので、どうか受け入れてくださいませんか?」
「そ……」
そんなのいいですから、と言いたかった。
でもいつまでたっても頭を上げないリリエラさんの強情さ、いや真摯な姿に、僕は何も言い返す術が見当たらなかった。
受け入れないと、延々とリリエラさんが頭を下げることになってしまう。
僕はしぶしぶとそれを受け入れざるを得なくなる。
「……わかりました。謝罪を受け入れます」
謝罪なんて必要なかったけど、それでリリエラさんが納得するのなら――
「そもそも、どうしてこのタイミングで明かそうと思ったの?」
「実は、私達にも義弟が出来たんです」
「ですから、義姉として手本……にはならなくとも、恥ずかしい生き方はできないと思いまして……」
「そう、シルクとも仲良くやってくれているのね。あの子も傷が癒えるにはまだ時間がかかるでしょうけど、その様子だと私の杞憂かもしれないわね」
「いいえ。シル君もリリエラ様に気にかけていただけたのならきっと嬉しいと思いますから」
「ふふ、愛称までつけちゃって、本当に仲がいいのね」
シ、シル君とな……!?
驚きすぎて、ヴァイスみたいな口調になっちゃったよ……。
いつの間に会っていたんだろう?
仲良くてうらやましい……。




