閑話80 御使い
【セラフィー視点】
とある日のこと。
「忍ちゃん!」
「闇属性付与」
忍ちゃんがクナイに付与した闇属性で鳥型の魔物を屠る。
この日、私は以前の約束通り聖影の皆さまと一緒に、迷宮に赴いていた。
「ふっ!ほっ!」
私に向かって突っ込んできた鷹のような魔物を返り討ちにする。
「さすがソラ様のお子様。魔法を使わず拳だけで邪悪な鷹をわからせるなんてな……」
「ヴァン、あなたはもう少し気を遣ってしゃべるということができないのかしら?その頭についている脳はただの飾りなの?」
杏さんがヴァンさんを煽っていた。
「お子様」という言い方にすこし引っ掛かりを覚えはしたが、ソラ様に同じことをしてしまった私が言い返す資格などない。
「杏、もっと言い方ってもんがあるだろうが」
「今あなたが言い方について講義するなんて……馬鹿も極まれば自分の犯した過ちに気付かなくて毎日が大変ね。まったく、あなたと付き合っていなければ、私もソラ様の愛人に進言したというのに……。あなたと寝言は私に子種を注いでから言いなさい」
最早怒っているのか愛し合っているのか意味不明だ。
ソラ様つながりで血はつながっていなくとも家族が増えたことがうれしい反面、この変わり者の嶺家が家族ということにあまりうれしくない感情を持ってしまう。
「お母様、お父様、痴話喧嘩プレイなんてことのために公衆の面前を有効活用しないでください」
「やっぱおかしいわ、この家族……」
杏さんの夫であるヴァンさんがあきれたように口にする。
「まあなんだ、『お子様』は言い方が悪かった。すまねぇ」
「いえ、気にしていませんから……。それより、どうしてシュネ―ヴァイス様がいらっしゃるのでしょうか?」
「なんじゃ?余が来てはいかんのか?」
むしろ当たり前のようにここにいることのほうが不思議でならない。
「そうは言っていないですけど……」
わざわざ私たちと一緒に来られる理由がわからない。
私が神獣鳳凰様のご加護を賜っているからか、たまにシュネーヴァイス様は私に気を遣ってくれる時がある。
とはいえ私も明らかに目上の人に気を遣われるのはあまり得意ではないので、基本的には一人で夜のトイレに行くのが怖いときに一緒に行ってくださったり、私が一人の時に悩みの相談に乗ってくださったりしてくれるだけだ。
年は……離れすぎているけれど、シュネーヴァイス様とは気のいいお姉ちゃんみたいな関係になりつつある。
「まったく、お主もソラに振り回されているものよな……。まったく、あやつはいつも何を考えているかわからん」
お義母様に振り回されるのであれば、私は本望だ。
それもこれもこの遺跡の迷宮を推奨してくださったのは、他ならないお義母様。
『セフィーも行くの?そうだね……いまなら多分、あの迷宮に行くのをオススメしておくよ』
その言葉を聞いたシュネーヴァイス様はなぜか私についてくることを決めたらしい。
「お、おい……!あ、あれ……!」
ヴァンさんが遺跡の奥を指さす。
「こりゃたまげた……!やはりあやつは預言者か……!?本当に主様がいらっしゃるとは……!」
羽には五色の紋様。
孔雀にも似たその羽に鸚鵡のようなくちばしをもつ鳥。
この美しい存在こそ、私に加護をくださった神獣様であり、世界のどこを転々としているか血のつながっているシュネーヴァイス様でさえも知ることができない神出鬼没の神様の御使い。
<よく来た。だがお前はまだ吾輩の目の前に姿をさらす資格を持たぬ。去れ>
「資格……?」
「セラフィー様、どうしましたか?」
私以外には、この声が聞こえていないのか。
おそらく、鳳凰様のお声だろうということだけはわかった。
「もっと自分を磨けということでしょうか?」
<左様。だが正しい道を選ばずに資格を持つようなら、吾輩がお前を殺す>
ごくりと、唾を飲み込む。
それは私のすべてを見透かされているようで、なんだかとても恐ろしい言葉のように感じた。




