第303話 戴冠
「それで、お二人のどちらが女王になるのか決まったのですか?」
「……」
「……」
王室に呼ばれた僕は、一向に決まらない議題になぜか詰め寄っていた。
決まり通りにソフィア王女とサンドラさんが次期女王となることが確定したのだが、問題の女王にどちらがなるのかという話については一向に進まなかったのだ。
それもどちらも王の座を譲らないというわけではなく……。
「私はサンドラちゃんに王になってもらうために今まで頑張ってきたんです。それに現状のハーフエルフの待遇をなんとかするためには、ハーフエルフであるサンドラちゃんに王についてもらうことが近道になるはずでしょう?」
「上に立ったことのない私に務まるわけないわ……。二択なら、帝王学を学んでいるソフィアのほうがいいに決まっているじゃない」
お互いに譲り合うことで決まらずにいたのだった。
「ソラ様からもサンドラちゃんに言ってあげてください!サンドラちゃんが王につくことこそ、いま必要なことだってことを……!」
「私みたいなちんちくりんに任せたら、この国は亡ぶわよ……」
「何よ!あの時はノリ気だったのに……!」
「それは……あの時は告白されたから……。あなたこそ、ただ自分が王になるのが面倒くさくて逃げているだけじゃない」
「……」
三人寄れば……ともいうけれど。
二人でも間に挟まれれば、かしましいものだよ……。
いや、最早ただの痴話喧嘩に挟まれているだけなんだよね……。
「別に二択にする必要なんてないと思いますけど……」
「ソラ様が二択になされたのではないですか……。そもそもソラ様が選択肢を用意されなければ、これほど悩む必要もなかったのに……」
僕のせいにしないでよ……。
「いやそもそも王が一人だなんて、誰が決めたルールなのですか?」
「まさか、二人でやれと……!?」
「決まらないのなら、そういう選択肢も有りなんじゃないんでしょうか?」
今日は王が変わるセレモニー。
つまりは戴冠式だ。
聖国では、王より上の支配者が存在しているため、毎回戴冠式は王より上の立場が「認め、与える」という儀式を行うことになっている。
これも聖国の起源である『第64代聖女のロサリンさんが与えた国』という事実からそう決まったものだ。
ソフィア王女からは戴冠の際に「頑張った証をください」という至極曖昧な要求をされてしまったので、こちらも無駄に考えることが増えてしまった。
<二人とも、前へ>
白いドレスに身を包んだ二人の美貌は、まるで結婚式の二人の花嫁のようだった。
<二人の新しい女王の誕生に、私から激励を込めてそれぞれ送りたいと思います>
アイテムボックスの奥底に眠るアイテム「王冠」を取り出し、その一つをソフィア王女に渡し、そして王冠に僕の聖印を押す。
<ソフィアさんには私の修行の卒業としての証を。頑張ってくださいね>
<謹んでお受けいたします>
『――木々を照らす温厚なる聖獣よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
そしてサンドラさんと向き合うと、僕はトンと一回、杖を叩いた。
『――顕現せよ、聖獣ドリアード――』
魔法陣から木の根っこが生えてくると、そこから少しエルフのような顔つきで、花や木の体をしている女性のような植物が現れる。
リアに合ったのはゲームぶりだろうか。
<リア、サンドラさんに加護を>
無口な植物は、頷くこともせずサンドラさんに土の加護を渡した。
<あなたはソフィア王女の隣で、彼女を支える矛になってください。そしてこれからも、弱気を救う正義の味方であってください>
そして、戴冠式を見守る国民の皆さんに向ける。
<今ここに、ハイエルフが統治する聖国はなくなりました。私たちは、一人では生きていけません。それはハイエルフだって、聖女である人種族だって、誰だってそうです。だからこそ、特定の種族が上に立つのではなく、いろいろな種族の人たちが助け合う新しい聖国の形を、皆さんで作り上げてください>
その瞬間、リアが自分の体から蔓を伸ばし地面と蔓をつなげると、あらゆるところからそれぞれに蔓が生え、アサガオの花が咲いていく。
アサガオの花言葉「結束」が、これから国として強い絆であることを切に願っているようだった。




