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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第299話 狡猾

「さて、自己紹介も済んだことだし、歓迎会といこうじゃないか」

「それに、エレノア様の送別会もですよ!」

「ボ、ボクのはいいんだよ……。どうせまた来るんだから」


 おっ?

 珍しくエレノアさんが恥ずかしがってる……。


「もうあの目覚ましがならないとなると寂しいですよぉ!」

「ミア様、まさか聞きすぎて頭がおかしく……」

「シエラちゃんひどい!」


 いや、あれを毎日聞くのはちょっと……。


「思わぬ弱点が見つかってしまったみたいですね」

「くっ……しかし、あれなしで起きれるようになれなんて……」


 別に僕の意見は気にしなくても……。


「でも、シエラちゃんは毎日あれを聞くのは嫌なのでしょう?」

「耳は弱いので……」


 僕がそう言うと、エレノアさんはがっくりと項垂れた。




 皆が会の準備に行った時、ネルちゃんの部屋に残った僕。


「ネルちゃん、ちょっといい?」

「……ぐう」

「す、すぐに寝ないでくださいよぉっ!」

「いや、それは多分……仕方がないことなんです」

「えっ……?」

「やはりそれは、魔力回復量が低いことと関係があるのか?」

「エレノアさん……!」


 扉にもたれ掛かっていたエレノアさん。

 部屋から出ていってなかったようだ。


「いやなに、単純な推理さ。大方、寝ると魔力回復量が上がるから本能的に寝るようになったんじゃないか?」

「ご明察です。つまり南の国にいた時からネルちゃんは常時魔力の自然回復より魔力の消費量の方が多かった。だから少なくなった魔力を回復するためによく眠るようになったように思います」

「そ、そんな……。私が起こしていたことで、ネル様にご迷惑を……」

「ハナ、気にしすぎ」


 ハナちゃんのほっぺを優しくぺちぺちするネルちゃん。

 氷の精霊だからか、ハナちゃんはその手が冷たくて「あひぃ」と声をあげていた。

 彼女なりのスキンシップなのだろうか?


「でも今は秘薬とその首飾りのおかげで魔力満タンのはずなので、眠くなってるのはただの怠慢ですからね」

「……ばれた」

「ネ、ネルさまぁっ!!」


 ポカポカと怒るハナちゃん。

 常に寝ているから、寝るのが癖になってるのかもしれない。


「ネルちゃん、眠ってばかりいるのをやめたいですか?」

「えっ……?」

「そんなこと、できるの?」

「それに今着けている『精霊の首飾り』のお陰で何もしなければ減ることはないけど、それだと気軽に魔法も使えないでしょう?」

「私、魔法使えるようになるの……?」

「なりたいですか?」

「うん、なりたい」

「では、これを」


 僕は背中でアイテム袋に数十個魔力のグミを詰め、それを取り出したように見せて渡す。


「これはおまじない」

「おまじない?」

「そう。病は気からって言うでしょう?『このグミを食べればあなたは眠らない。このグミを全部食べたら、きっと症状は治る』」

「……」

「そうしたらその首飾りも要らなくなると思うから。そして元気になったら、私と共に迷宮で魔物を倒してレベルを上げましょう?約束ね」


 僕はネルちゃんに小指を出すと、彼女は指切りをしてくれた。

 ネルちゃんの手は冷たくて気持ちよかった。




 部屋を出ると、エレノア様もついてきた。


「何が『おまじない』だよ……。どうせ完治させるための伝説のグミなのだろう?」


 最大魔力が少ないままでは、自然回復量が少ない。

 だから最大魔力を上げることが一番の解決法だ。


「『おまじない』でいいんですよ。知らぬが仏……とまでは言いませんが、わざわざ知る必要はないと思いますから」

「そういうところがズルいんだよ……」

「ズルいって……」


 エレノアさんが僕の横に立つと、頬に柔らかい感触がぶつかった。


「っ……!?」

「これは、牽制だよ。定期的に見に来るから、覚悟したまえよ親友」


 ……ズルいのはいったいどっちだよ、もう……。

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