閑話78 天才児
【エルーシア視点】
コンコンと戸を叩くと、「どうぞ」と声がしてやがてカーラ様が扉を開きました。
「失礼いたします」
サクラ様に呼ばれるなんて、珍しいこともあるのだと思いました。
「ソラちゃんのお世話もあるのに、呼び出してごめんなさいね」
「いえ……今は暇をしておりましたので」
専属メイドである私は基本的にソラ様の命令にのみ従うこととなっています。
それはカーラ様やセリーヌ様も同じです。
今はソラ様がお出掛けでいらっしゃいますので、私はすることも特にありませんでした。
それに、私は幼い頃サクラ様に命を救われた身。
私はこうして直接サクラ様のお役に立てることが嬉しくてたまりませんでした。
「ならちょうどよかったわ。ちょっと付き合ってもらえる?」
「あー」
真桜様は蝶にお手を伸ばしておられました。
可愛らしい仕草に、思わずほっこりとしてしまいます。
私もこんな赤ちゃんが欲しい……。
……はっ!
いけません!
まさかソラ様とのお子を望むなど……。
最近の私、少しふしだらです。
「さ、着いたわ」
ここは、聖女親衛隊の皆様の訓練場。
「エルーちゃん、お手合わせお願いね」
「へ……!?」
「出産でしばらく戦闘のカンが鈍っちゃったから、取り戻しておこうと思ってね。言っておくけど、手加減をしたら承知しないから」
「は、はいっ……!」
真桜様をセリーヌ様に預け、杖を構えるサクラ様に逆らうこともできず、私も急いで杖を構えるのでした。
「閃光の蝶」
「氷の球壁」
爆発する光の蝶がゆっくりと周りを漂い、私は身動きを取れなくなります。
宙を舞う光の蝶は私の作った氷の球体にぶつかると、球体はやがて壊れます。
「魔喰い本」
「水圧銃!」
そして大きな魔喰い本達で挟み撃ちにし、私を確実に捕まえる準備を整え――
「ディバイン・レーザー」
上級魔法の高密度光レーザーで私を攻撃するという詰め方をされてきました。
「リフレクトバリア!」
ですが、魔喰い本は水圧銃で撃ち抜き、ディバインレーザーはリフレクトバリアで跳ね返します。
同じ両杖の戦闘スタイルで互角になっているのは、お互いに一度のミスも許されないからです。
手数が足りないと感じた私は、「使えるものはなんでも使え」というソラ様の教えをもとに、助っ人に頼ることにいたしました。
「テティス様!」
「まっかせなさいっ!」
「あ、ずるいっ!」
「「大雪崩!」」
合成魔法で横から大きな雪の雪崩を起こします。
は、反則だったでしょうか……?
「くっ!」
準備のできていなかったサクラ様は構えてディバインレーザーを放ちましたが、大きな雪崩を止めるには至りませんでした。
「いけないっ!」
戦闘の初めから感じていた違和感の正体。
サクラ様の魔喰い本が私の魔法で破られ、ディバインレーザーで雪崩を止めることが出来ないでいました……。
その原因がステータスによるものなのか、ソラ様の提唱されている「練度」によるものなのかはわかりませんが、分かっていることが……いえ、認めなければいけないことが一つございます。
それは……不敬にも、私の魔法がサクラ様を上回っているということです。
これも全てソラ様のおかげでしかありませんが、今はそんな場合ではありません。
ですが、無情にも放ってしまった魔法は抑えることができず、雪崩は津波のように大きくなってサクラ様に押し寄せてしまいました。
「サクラ様っ!!」
雪が白い煙のように辺りを立ち込めます。
それが収まったとき、サクラ様から雪崩を守る一つの光のバリアがございました。
「た、助かった……の……?」
「えっ……?」
杖のように光を放っていたのは、なんとサクラ様の杖ではなく、離れたところでセリーヌ様に抱っこされて観戦なさっていた真桜様そのものでした。
「サ、サクラ様っ!ま、真桜様がっ……!」
「あうー!」
こ、これはまさか……無詠唱魔法でしょうか……!?




