第29話 学寮
レクリエーションが終わり解散すると、校内放送が流れた。
「シエラ・シュライヒさん、エルーシアさん。学園長室までお越しください」
もう嫌な予感しかしない……。
けど、エルーちゃんまで呼ばれているのはなんでだろう……?
職員数に向かう途中だからと、マリエッタ先生が案内してくれた。
「やっぱ人間族は速いですね!」
マリエッタ先生を抱っこしながら歩く。
ああ、癒される……。
横で歩くエルーちゃんがうずうずしていた。
「あ……あの……私も抱っこしてもよろしいでしょうかっ!」
エルーちゃんも可愛いものには目がないみたいだ。
「はい、どうぞっ!」
僕の手から降りると、両手を上に挙げ、背伸びしてだっこを催促する。
「わぁ……!」
「ふふふ、先生の魅力に気付いちゃいましたか?」
むしろ魅力しかないと思う。
癒しの権化に癒されつつ、職員室のある中央棟に向かう。
「階段を上って、二階に学園長室がありますっ!では私はこれで!また明日っ!」
職員室の扉がガラガラと閉まる。
二階にいくと、木製の重厚な扉があった。
「学園長、失礼いたします」
エルーちゃんが開き中に入ると、学園長が土下座していた。
「え……?」
「ソラ様……。申し訳ございませんでした……」
違和感に気付いたエルーちゃんが慌てて扉を閉めた。
「あ、頭を上げてください。あの件はサクラさんにも説明不足の落ち度がありましたから……。次は話を聞くようにしていただきたいですが……」
「すみません……。ですが、何せあれはサクラ様が入って以来の感動でしたから……」
そんな戦闘狂の感想を聞きに来た訳じゃないんだけど……。
「用件はそれだけですか?」
「いえ……その、サクラ様からソラ様……いえシエラさんとエルーシアさんに御告げを言付かっております」
そんな嫌な予感がする伝言も聞きたかった訳ではないんだけどね……。
「あの、先に言っておきますが、私の言葉ではなく、サクラ様の御言葉ですので……」
そんな前置きが必要なくらいヤバい内容なの……?
「大丈夫ですよ。サクラさんにはいつも振り回されていますから。怒るときは一緒にサクラさんに怒りましょう。私達はいわば同士です!」
「ああ……ソラ様は天使様です……!」
んな大袈裟な。
「では伝言です。『これから二人には、学園寮で生活して貰うわ』」
声質は似ていないが、サクラさんに似ている口調でそう言った。
「は……!?」
「『だって、いち学生が聖女院から通っていたら怪しまれるでしょう?』とのことです……」
言われてみると確かにそうだけどさ……。
けど、問題なのはここは女学園ということだ。
学園寮ってことは女子寮になる。
「それは駄目ですって……!?」
「何が駄目なのですか?」
学園長は知らないからね……。
エルーちゃんに助けを求めるも、可愛らしく首をかしげられてしまった。
ピンときてないな、これは……。
共に生活するということは、着替えも、トイレも、風呂も筒抜けになるということだ……。
それはまずい。まずすぎる……。
「お二人は成績優秀ですから、朱雀寮へ入寮となります。個室にトイレもシャワーも付いているとてもいい寮ですよ」
……個室!トイレ!シャワー付き!
最悪の事態が避けられるならいいと考えている時点で僕、大分毒されてきていないか……?
「……わ、分かりました……」
「ありがとうございます。朱雀寮までは私がご案内いたしますね」
赤レンガ建造物から離れたところに、管理された芝と木製のペンションが並ぶ場所があった。
一番端にある、この大きな二階建てのペンションが朱雀寮らしい。
「学園長!そちらは、もしかしてシエラちゃんとエルーシアちゃんでしょうか?」
「ええ。こちらは朱雀寮の寮母のフローリアさんです」
「はじめまして。朱雀寮の寮母をしていますフローリアです」
百合の花のように爽やかな笑顔。
清廉を絵に描いたような人だ。
「シエラ・シュライヒと申します」
「エルーシアです」
僕とエルーちゃんは挨拶をして頭を下げる。
「ふふ、よろしくね。そうそう今朝、サクラ様がいらっしゃってね!サクラ様からお訊きしたの!シエラちゃん、大聖女さまのお弟子さんなんですってね!」
こんな純真そうなな人を二重にも、三重にも騙しているだなんて思うと、とても心が痛くなった。