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男の大聖女さま!?  作者: たなか
第31章 頽堕委靡
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第280話 追撃

 迷宮の中は植物の大きな蔦が空洞になったような空間にエメラルドに輝く子房を持った花が揺れる神秘的な場所だ。


『――闇を照らす勇敢なる聖獣よ、今ひと度(われ)に力を貸し与えたまえ――』


 迷宮に入ると、早速足を用意した。


『――顕現せよ 聖獣フェンリル――』

「ウォウフ!」


 久々の出番に、リルは僕に飛び付いてきた。


「ふふ、よしよし」


 以前聖女の人気聖獣ランキング1位という話はしたと思うけど、リルは素直で人懐っこいから好かれやすいというのもある気がする。


「フェンリル様……?先ほど、ソラ様は経験値効率を重視する旨ご説明ございましたが、それならばプシュケー様だと思っておりました……。何故フェンリル様なのでしょうか?」

「ソフィア、それはフェンリル様に失礼よ……」

「す、すみません……。疑問が(まさ)ってしまい、つい……」

「確かにプシーの方が早いですけど、今回の目的は別にあります。名付けて『とにかく楽してレベル上げ』です」

「『とにかく楽してレベル上げ』?」


 僕はアイテムボックスから『追撃棍(チェイス・ステッキ)』を取り出した。


「サンドラさんだけこの『追撃棍』を持ってリルに乗ってください。あとはこれ……『貫通の指輪』と『聖霊のネックレス』もつけてください」


 『貫通の指輪』は武器に防御無視攻撃を付与できる指輪。

 『聖霊のネックレス』は魔力を自動回復してくれるネックレスだ。


「ソラ様っ、ひどい……!私がサンドラちゃんに指輪を渡す前に、強要するなんて……!」


 なんか僕が指輪を渡す度に誤解が生まれている気がするんだけど……。


「別に、レベル上げが終わったら外していただいて構いませんよ」

「と、とっかえひっかえということですかっ!?」


 ……一体なんの話をしてるの?


「私は何をすればよろしいですか?」

「ソフィア王女はついてくる必要ないですよ。というかこっちに構っている暇があるん……」

「私はっ!何をすればっ!よろしいですかっ!!」


 僕の言葉を遮って、食いぎみにそう聞き直す。

 ……現実逃避してて大丈夫なの、王女様……?


「じゃあ一回目はサンドラさんと一緒にリルに乗ってください。経験値泥棒にはなりますが、これからやることをどうせあくどいことをするのですから気にしても意味がないでしょうし……」


 ソフィア王女がリルに跨がるのを待つ間に、ソフィア王女用のアイテムを取り出す。


「ソフィア王女は二週目から私と同じ役割を担ってもらいます。この『(かん)グラス』をつけてください。サンドラさんは片手で『追撃棍』を持ち、常に魔力を『追撃棍』にともすようにしておいてください」

「わ、わかったわ」


 僕も『患グラス』を装着すると、「リル、行くよ」と言って僕は先行する。

 二人を乗せたリルも僕との距離を適度に空けながら、そこまで早く進まずについてくる。


「サンドラさん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 僕は杖を取り出し、走りながら正確に追尾フレアをすと、()()()()()魔物に命中させ倒れていく。


 すると後を追うサンドラさんが持っている『追撃棍』が魔力を使い勝手に伸縮し、()()()()()()()()()()()()を突き破って進んでいく。


 この洞窟の光源となっていた美しい子房がパリンパリンと音を立てて割れていくと、僕の後方はどんどん暗くなっていく。




 そのまま一直線にボス部屋まで進むと、最上級魔法の「ホーリーデリート」を使い僕がボスのユグドラシル・ドラゴンをワンパンで消し炭にする。

 アイテムの『ユグドラシルの枝』をアイテム袋に突っ込んで転移陣に進む。


「さ、転移陣で戻りましょう」


 転移陣で迷宮の入り口に戻ってくると、ソフィア王女がぽかんとしていた。

 今までの修行と様相が違うことに驚いたのだろうか?


「とても強そうな魔物でしたが、それをサンドラちゃんが倒すのではなかったのですか?」

「大丈夫、ちゃんとレベルは上がってますから。ほら」


 僕はサンドラさんにステータスを表示してくれる『魔水晶』を差し出すと、サンドラさんがそれに触れ、ふたりがじろりとそれを覗いた。


「えっ……一周でもうレベル30ですかっ……!?」

「ど、どうして……?私、武器に魔力を灯していただけなのに……」

「これが私なりに工夫した、『最も楽にレベル上げを終わらせる方法』です」

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