第277話 教訓
「ソラ様、私感服いたしました!」
「へ……?」
そういうとディアナさんは僕の手をそっと掴んだ。
「えっ、な、なんですかっ!?」
「ちょ、ちょっとディアナお母さん!?」
「もしかしてソラ様は、ジーナ様のお声で罵倒することもおできになるのですか……?」
「……は?」
いきなりなに言い出すの……!?
「ディアナ様!?」
「ディアナお母さんっ!?」
娘のサンドラさんすら困惑している。
「……罵倒されたいんですか?」
「はぁい、それはもう……!もし生き返ってくださったのなら、是非お叱りをいただきたいのです……」
そうか、亡くなったジーナさんのことを思い出してるんだよね。
僕の罵倒なんかで思い出すことが出来るのなら、再現してあげたいところではあるけれど……。
<エリス様>
<はあい!>
<ジーナさんの声ってどんな声でしたか?>
<聞いてたわよ。当時の映像を共有するわね>
そんなのあるの……?
まもなく映像が脳内で再生される。
そこに写っていたのは、鞭を持つ女王様……いや、おそらくあれがジーナさんなのだろう。
もう一人はディアナさんだ。
エルフだからだろうけど、今とあまり容姿は変わらない……って、二人とも下着姿じゃないかっ!?
<ちょっと、エリス様っ!なんて映像見せてるんですかっ!!>
ここにもプライバシーの配慮がない人……もとい神がいたなんて……。
まさかとは思うけど、歴代の聖女の情事全て記録されていたりしないよね……?
<あるわよ?>
<少しは罪悪感をもってくださいっ!!>
持っているのが当然のように言わないでほしい。
<男の子だものね……!そういうのに、興味あるわよね……!梓のショタケモ情事も取り揃えているわ。見る?>
嬉々として見せようとしないでよ。
そんな身内の情事なんて、わざわざ見たくないよ……。
『ここが好きなのでしょう!メス豚……!』
パシン!パシンと鞭を打つも、その度に回復させている。
『んひぃ!お慈悲を……!』
『まだ欲しいのですかっ!この変態……!』
……ぼくはいったいなにをみせられているのだろう……?
寮母さんのフローリアさんに聞いた限りだと優しい人という話だったけど、こんなにも変わるのか……。
姉もイケメン相手には豹変するし、似たようなものか……。
『ヒール』
いや、回復させているところを見ると、その中に愛情がこもっていることはわかる。
ジーナさんは、惚れた弱みで付き合わされているような気がする。
これ以上見るのは罪悪感に刈られたので目を閉じるも、逆に肌の擦れる音が生々しく、さらにはくちゅりと音がしたときには思わずびくりとしてしまった……。
キ、キスの音だよね……?
<も、もういいですからっ!>
これ以上聞いてたらいけない気持ちがうずいてしまいそうだ。
<……元気になっちゃった?>
<セクハラですよっ!>
僕は目を開けると、さっき見聞きしたことを反芻してなりきる。
『ここが好きなのでしょう!メス豚……!』
「はあっ!ジーナ様ぁっ!もっとぶって下さいっ!」
『まだ欲しいのですかっ!この変態……!』
演技をしているときは俯瞰的でいられるので、余計な劣情を抱かなくて助かるけど、もはや無だ……。
「はぁ、はぁっ……あ、ありがとうございます……!久方ぶりに心も身体も潤ってしまいました……」
「……」
横を見ると、なんか喜んでいるソフィア王女と、とても渋い顔をしているサンドラさんがいた。
……わかるよ、サンドラさん。
身内のものほど見たくないものはないという教訓は、異世界に行っても変わらないようだ……。




