第276話 女王
「それで、どうしてここに?」
忍さんの拘束を解いて話を聞く。
「ソラ様のことを御守りするためです」
「……聖影って、暇なんですか?」
「それが私達の使命であり仕事でございますゆえ」
なんというか、用意されていた接客のテンプレート会話みたいだな……。
「ソラ様、恐れながら申し上げますが……」
今まで自分の意見を述べなかったディアナさんが意外にも、ここで口を挟んで来た。
「聖影は本来聖女様の代わりに汚れ仕事をこなすために作られた部隊です。しかし汚れ仕事になるようなことは聖女様達が本来望まれないことです」
「確かに……」
エリス様も、そういう人は連れてこないと言っていたし。
「すると手の空いた聖影達の残りの仕事はこの聖女院の侵入者がいないか監視することと『聖女様の護衛』。侵入者監視には結界が張ってあるため数人で良く、残りは護衛になります。その結果聖影はこれを曲解し、護衛という名目で四六時中側に付きまとうようになったのです」
「……なんか、ディアナさんいつにもまして感情がこもっているような……?」
「……」
顔を真っ赤にして忍さんを睨むディアナさん。
そうか、彼女はジーナさんの専属メイドであり、そしてジーナさんのお嫁さんでもある。
「もしかして、ディアナさんも……?」
「はい。それでジーナ様との睦言を何度邪魔されたことか……」
「っ、ちょっと!?プライバシーの欠片もないじゃないですかっ!?」
ぼ、僕だったらと思うと、心底ぞっとする……。
「淑女なら相手のプライベートにズカズカと踏み込むべきではありませんっ!当たり前のマナーですよっ!」
何で男の僕が淑女のなんたるかを説いてるのさ……?
いや、そもそも淑女とか以前に人としてダメでしょ……。
い、いや、姉もそういう人間だったから、男女関係なくそういう人たちがいるのは分かるけどさ……。
気にせず「見せる」のと気にせず「見る」のは全然違う。
ただの盗撮や覗きだよそれは……。
「大丈夫です、ソラ様」
「な、何が……?」
この期に及んで、言い訳をするつもりなの……?
「家族であれば、プライベートは共有されるものでございますから」
「……ああ、そういう……」
確かに、姉は堂々と男連れてそういうことしてたけどさ……。
「って!あなた達の家族に該当するのは私だけじゃないですかっ!!!それではサクラさんやジーナさんに同じことをしていい理由にはなりませんからっ!!」
危うく誤魔化されるところだったよ!
……もしかして葵さんが聖女院を出てブルームさんの花屋さんに身を置くようになったのって、これが原因なんじゃ……?
「……もう怒りました……!他人ならまだしも、身内が他人に迷惑をかけているのは流石に我慢なりません……!!」
「ソラ様、大丈夫です。我々は聖女様の影……」
「お黙りなさいっ!」
僕は声色のスイッチを切り替えて高飛車なリタさんのような低い声を出す。
首根っこを掴むと、手で忍さんの顎を押す。
「そのへらず口、閉じておしまいっ……!」
「っ……!ワ、ワンッ!」
その掛け声はおかしいでしょ……。
「監視にあたっている聖影以外を全員連れてきなさい!今すぐにっ!」
「はっはっ……!ワンッ!女王様っ!」
なんか目がハートになっていたが、気にしないでおこう……。
「私よりずっと女王様していますね……」
女王の意味違うから……。
「もう、ハインリヒの女王をされては?」
次期女王候補達二人には言われたくないよ……。




