第275話 命令
「いつの間にご家族を増やされたのですか?」
「その聞き方だと私が養子を取ったというより子供を作ったみたいに聞こえるのでやめてくださいよ……」
「師匠のことですから、生命の常識を超越して子供を作られても最早何も驚きはしませんよ」
「相手もいないのに、どうやって作るんですか……」
そもそも僕が生むこと自体がおかしいんだけど……。
「シルク君はリリエラさんのところで養子に取りました」
その事実だけ伝えると、それ以上はやぶ蛇だと思ったのか配慮なのか分からなかったけど、つつかれることはなかった。
「失礼いたします」
シルク君がノックしてから扉を開き、僕達を促してくれる。
「シルク君、ありがとう。お仕事頑張ってね」
シルク君は何も言わずにこくりと頷いた。
「ふふ、立派にお義母様されていらっしゃるのですね」
「からかわないでください、もう」
「ソフィア、ソラ様……」
「ディアナさんに、サンドラさん。お久しぶりです」
「ソラ様、私どもにご用でしょうか?」
「その前に――」
僕は頭で念じると、聖女結界を張り、広げていく。
「これは、聖女様の結界……!」
「どうして結界を?」
「聖女結界は本来は魔物を結界内に寄せ付けなかったり、魔物を閉じ込めるのに使いますが、実は人や魔物など、魔力を持った存在の感知も出来るんです」
「なるほど……」
僕もこっちに来てから知ったことだが、まるで結界が自分の皮膚であるかのように触れた敵がわかるようになっていた。
虫でいうと触角の機能だ。
「っ……!?そこにいるのは、誰ですかっ!?」
「……」
部屋の角の天井を指差すも反応はない。
内緒話をする都合上念のため人がいないことを確認しておきたかっただけなんだけど、予想外の出来事が起きてしまった……。
「ソラ様……?本当にそちらに、誰かいるのですか?」
「光の束縛」
ソフィア王女が疑い始めていたので光の糸を伸ばして拘束し引っ張り出すと、やがて透明になっていた人がどさりという音だけを立てて天井から落ちる。
「何者っ!?」
「……はぁ、はぁんっ……!」
透明な存在の息ぐ段々と荒くなっていた。
拘束しても姿が現れないということは、透明にしている術者が本人ではないということだ。
「……」
僕はその違和感を頼りに次の一手を繰り出した。
『――幻影を照らす寡黙なる聖獣よ、今ひと度吾に力を貸し与えたまえ――』
詠唱を行い魔法陣を展開したとき、同じ魔法陣が透明になっている拘束された人の肩にも浮かび上がっているのを確認した。
「魔法陣が、二つ……?」
『――顕現せよ、聖獣獏――』
モードクリアで現れた透明な獏がこちらから見えるようになる。
聖女は召喚を行うことで召喚獣との間に使役関係が生まれる。
つまり召喚をしていないときは命令やお願いをしても聞いてくれない可能性があるけど、召喚をすれば「命令」ができるようになるということだ。
「獏、一体化を解除して」
「……」
無言で命令にしたがう獏。
やがてすうっと透明な人間が姿を現す。
「あ、あなたは……!?」
獏を召喚したときに転送前と転送後の魔方陣が同じ部屋に現れたということは、獏はそこに既にいたということに他ならない。
「……何してるんです?忍さん……」
「……は、はぁっ……そんなっ!透明……拘束……焦らしプレイなんて……!はぁ、はぁ……わ、私にはっ……未知数過ぎて二回ほど達してしまいました……」
体をビクビクとさせながら、忍装束を来て体をくねくねさせていた変態がそこにいた。
「……」
唖然とする皆さんに、僕は心底ろくな血族がいないことを嘆くのだった。
「身内が、本当にすみません……」




