第27話 擬戦
多目的ホールに集まると、マリエッタ先生が大きな槌を担いで待っていた。
少女に槌というのはなんだか見ていて落ち着かない。
「さてっ、レクリエーションの一つ目は模擬戦ですっ! 気になる相手とマッチングっ! しちゃいましょーっ!」
それはレクリエーションなの……?
異世界とのギャップを感じつつ、さっきから気になっていることを聞くことにした。
「あの……どうしてマリエッタ先生も武器を持っていらっしゃるのでしょうか?」
「シエラさん、よく聞いてくれましたっ! 私も相手になりますよっ! これでも私、元Bランク冒険者でもありましたから!」
クラフトアイテムは魔物からしか獲れないものも多い。
クラフト好きは必然的に冒険者のような職業になりがちなのかもしれない。
ハンマーを軽々とぶんまわし、グリップをカッと地面に突く。
「さあ、どなたでも相手になりますよっ! まあ、今年はどうやら私でも歯が立たない方がいるみたいですけど……」
そう言って僕の方を見てくるマリエッタ先生。
というか勝った生徒は僕だけじゃないのに……。
今日は浮いてばっかりだ。
この所謂「二人組を作ってください」に、いい思い出なんかありゃしない。
皆思い思いのペアを組み始めた。
こりゃまた先生とかな……。
「シエラさん! あの、私と模擬戦……して貰えないかしら?」
「えっ……」
リリエラさんが勢いよくそう言ってきた。
「む、取られてしまいましたか。 私も学園長を倒したその実力、拝見させていただきたかったのですが……」
続いて黒髪の女性がそう言う。
「あなたは確か……フォークナー伯爵令嬢ね。 それなら、私と共闘してシエラさんと試合わない?」
フォークナー伯爵令嬢……ということは確か入試で3位だったイザベラ・フォークナーさんか。
「2対1では流石に、シュライヒ侯爵令嬢に分が悪いのでは?」
「学園長を倒した御方なら、それくらいがハンデとして十分では?」
「2人でも構いませんよ」
対人の2対1をするのは初めてだ。
少しワクワクしてきた。
「あらっ、シエラさんは取られてしまいましたかっ……。 じゃあ先生はっ、エルーシアさんとやりましょうっ!」
「ええっ!? わ、私ですかっ!?」
やっぱりマリエッタ先生は入試結果を知っていたということだよね……?
さっきは何で僕だけ睨み付けたのさ……。
「なんだか嘗められている気がしますが……。 分かりました」
イザベラさんは槍使い、リリエラさんは魔法使いのようだ。
僕は以前エルーちゃんにあげた『漆黒のワンド』を二本、アイテム袋から出す。
アイテムボックスは聖女しか使えない。
アイテム袋は聖女しか作れないが、貴族なら持っている人も少なからずいると聞くし多分大丈夫なはず。
「では、参ります」
イザベラさんは掛け声とともに距離を詰める。
僕は上体を反らして突きを躱し、凪払いをしゃがんで避ける。
すると柄をしならせ棒高跳びのように跳躍し、そのまま重力を槍の威力に上乗せして振り下ろした。
僕は両ワンドに強化魔法を施し、2つのワンドの十字に交差した部分でその槍をガシッと挟んだ。
「何っ!?」
これくらいの威力なら、強化魔法をかければワンドでも十分受けられる。
と、リリエラさんが後方から的確に雷魔法のサンダーボルトを撃つ。
天から雷を降らせる魔法だ。
そしてちょうどイザベラさんの槍を受けたとき、僕のワンドは上を向いていた。
これはいいように使わせて貰おう。
身体強化で腕力を上げ、ワンドでイザベラさんの槍を弾き、そのままリフレクトバリアを斜面になるように張る。
落ちてきた中級魔法のサンダーボルトは斜めに置いたリフレクトバリアに反射され、そのまま落ちてきた速度で真横向きの雷となる。
サンダーボルトはそのまま仰け反ったイザベラさんの槍にぶつかり、弾いた。
「くっ――!?」
「ライトニングバレットッ!」
カランカランと槍が落ちる音に目もくれず、リリエラさんは想定外とばかりに乱れた声を出しながら大きな雷弾を放つ。
リフレクトバリアで反射すると、向こうもバシッと反射してきた。
反射合戦か。面白い。
リフレクトバリアは丁度弾くタイミングで押し返すことで、威力を倍にできる。
僕が弾き返す毎にライトニングバレットは高速になり、その威力も上がっていく。
お互いに歩き距離を詰めて行き、反射の速度もどんどん速くなってゆく。
丁度十回返したところで、ついにリリエラさんのリフレクトバリアで弾き返せなくなり、暴発した。
「きゃあっ!?」
あ、ヤバい!
何やってんだ僕……。怪我をさせてしまった。
慌てて駆けつけ抱き抱えると、周囲に煙が舞う中でこっそりとヒールと唱えておく。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「……やっぱり光魔法だった」
あ……まずい、バレた……!?
「貴女がソラ様に師事できたのは、貴女が光魔法だったからだったのね……」
「え、ええ……」
よ、よかった……聖女バレではなかったのか。
光魔法使いは貴重らしいけど、別に聖女以外にいないというわけではなかったはずだから気にしなくてよかったのか……。
僕はエルーちゃんが水魔法でも教えられたけど、基本的に自分が使えない属性の知識は少ないので教えられない。
だから魔法に関してはバリアや強化魔法のような無属性以外は、同じ属性の魔法使いに教えて貰うというのがこの世界の常識のようだ。
「負けました。 完敗です。 二人相手でも勝てないなんて……流石に強いわね」
「腕が痺れましたよ。 流石、入試で唯一、先生を倒しただけはありますね」
二人して握手を求めて来たので応じる。
なんだか少し恥ずかしいけれど、認めてくれたみたいで嬉しかった。
「私も楽しかったです。 でも何か勘違いしているようですが、入試で先生を倒したのは私だけではありませんよ?」
「え……?」
イザベラさんが何をいっているのか分からないといったような顔をしたとき、後ろから歓声が聞こえた。
「せいやっ! ほっ!」
「ふっ、はっ!」
マリエッタ先生の全身を使った大振りをガシッ、ガシッと障壁で弾く。
「す、すごい……! あのハンマーを障壁だけで弾くなんて……!?」
思わぬダークホースに皆が釘付けとなっていた。
エルーちゃんは、マリエッタ先生が上から振り下ろすスタンプ攻撃を使ったタイミングでわざとバリアを張らずに横に避け、そのまま自分の足元に設置した水の池に突っ込ませる。
「うわあっ!」
勢いよくざっぱーんと水飛沫があがる。
エルーちゃんの魔法の使い方は、僕より才能があると思う。
「ぷはーっ! 参りました……。 流石、入試でAランク冒険者の先生を倒すだけはありますねっ!」
「「えっ、えええええっ!?」」
皆が異口同音で驚く。
いつも頑張りやさんなエルーちゃんが評価されるのはとても嬉しい。
「えへへ。 平民の私でも先生に勝てたのは、シエラ様のご指導のお陰です!」
エルーちゃんがそう言うなり、皆バッと僕の方を見る。
しまった、この飛び火は想定してなかった。
「流石、学園長を退けた御方ですわ!」
「今度コツを教えてくださいまし!」
いつの間にか、クラスの皆に囲まれてしまった。
失敗したかと思われた学園生活がなんとかなりそうになったものの、悩みの種は増えていくのだった。




