第266話 執事
シルク君を聖女院に連れ帰り、ルークさんに事情を説明する。
シルク君には執事さんと一緒にお風呂で身綺麗にしてもらっている。
僕がしてあげられればよかったんだけど、流石に僕の性別を聖女院の皆さんに公表するわけにもいかないからね……。
「また養子になさるおつもりで?」
「そうですね。ただ、今回は朱雀寮に連れていくわけにはいかないので……」
シルク君は男の子だもん。
いや、僕も男の子なんだけどさ……。
「でしたら、聖女院でお預かりしますよ」
「……いいんですか?」
「いいも何も、最初からそのつもりだったのでは?」
「そうしてくれたら嬉しかったですけど、それが無理ならどこか近くにお家を買って住まわせようかなと……」
「そこまで考えておられたのですね」
お布施でどんどん溜まっていく僕の所持金はなるべく僕で貯めずに世に回さないとね……。
「聖女様のご希望を叶えるのが聖女院本来の役割ですから。ご家族のお世話も含めて聖女院のお仕事でございますよ」
「ありがとうございます」
「しかし、ソラ様のお願いはいつも他人のためでございますね」
「十分自分のためだと思うんですけど……」
「ふふ、ご存じかもしれませんが、初代様もそのように仰って嶺の名字を増やしていったそうですよ」
そういえば、お祖母ちゃんの養子の子孫が忍さんと神流さん達だったね。
嶺姓は名誉がありそうだけど、奏姓は母や姉の一族のイメージが強く、正直不名誉のように感じてしまうな……。
「さっぱりしたね」
執事さんと一緒に姿を見せるシルク君。
長い襟足とストレートな紺色の髪は年相応の可愛らしさと凛々しさを兼ね備えた、少し中性的な印象だ。
「ソラ様、お願いが」
「なあに?シルク君」
「ここで、働かせていただけませんでしょうか」
「……」
「シルク様、あなたは今からソラ様の家族ですから必要ではありませんよ」
「ただ養われるだけというのは嫌です。せめて私も、ソラ様のためになることがしたいです」
「シルク君……」
淡々と話すシルク君。
でもその奥に優しさを感じた。
「ソラ様、シルク様は予てより使用人として働いていた知恵を生かしたいと考えておいでです。ですから、執事として教育させてはいかがでしょうか?勿論、お給金はお出しします」
「シルク君、執事、やってみたい?」
「はい」
「わかった。でも困ったことがあったら遠慮なく言ってね。私達は、家族なんだから」
僕がシルク君の両手を取ると、シルクは少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら微笑みを向けてくれた。




